研究課題/領域番号 |
19K03851
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
北澤 敬章 首都大学東京, 理学研究科, 助教 (20271158)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 現理論 / ゲージ対称性の自発的破れ / ブレーン動力学 / ローレンツ対称性の破れ |
研究実績の概要 |
弦理論の10次元時空にDpブレーンというp次元空間を占める物体を導入すると、その上のp+1次元時空にゲージ対称性が導入される。DpブレーンがN個重なっているとゲージ対称性群はU(N)になる。現実の世界で起きている電弱対称性の自発的破れのようなゲージ対称性の自発的破れは、このN個のDpブレーンが分離することによって起こる。例えば、それがN1個のまとまりとN2個のまとまりに分離すると、ゲージ対称性はU(N1)xU(N2)に破れる。 分離した2組のDpブレーンの距離をどうやって一定に保つかということが問題になる。なぜなら、その距離がゲージ対称性の自発的破れのエネルギースケールに対応し、現実の世界では弱い相互作用の力の強さを決めることになるからである。 Dpブレーンが相対的に静止しているときには力は働かないが、相対運動をしている場合には力が働く。もしその力が十分に強くて遠心力とバランスするならば、2つのDpブレーンは連星系のように距離を一定に保ちつつ公転運動する可能性がある。これは2組のDpブレーンの距離を一定に保つ機構であるかもしれない。 そこで、特に3次元空間を占めるD3ブレーンの場合について具体的に力のポテンシャルを計算した。その結果、力は引力であることがわかったが、その大きさは2つのD3ブレーンに公転運動をさせるほどは強くないことがわかった。しかし、複数個のD3ブレーンのまとまり同士の場合には公転運動が可能である可能性が残されている。 もし、互いに公転する連星系のような束縛状態が実現した場合、Dpブレーン上にはローレンツ対称性の破れが現れる。特に、ゲージ対称性の自発的破れと関わるヒッグス粒子に現れるローレンツ対称性の破れについて、束縛状態を作っている力の性質によらない予言を行なった。現在の実験から、公転の角速度は数GeV以下(自然単位系)でなければならないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にして、連星系のように互いに公転するD3ブレーンの間に働く力を計算することができた。運動しているDブレーンにの間に働く力の計算は非自明で、これまでは直線運動で互いにすれ違う場合の計算結果しか存在しなかった。基本的に任意の運動をしているDブレーンの間に働く力(ポテンシャルネルギー)を計算する新しい方法を開発して実際に適用したことは、初年度の成果としては十分である。
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今後の研究の推進方策 |
連星系のように互いに公転する束縛状態が複数のまとまったD3ブレーンの間で可能であるかどうかを明らかにする。そしてさらに、一般のDpブレーンの場合についても明らかにする。 束縛状態ができないことがわかった場合には、弦理論におけるゲージ対称性の自発的破れの機構として他の機構を探索する。例えば「ブレーン組み換え」と呼ばれている現象もゲージ対称性の破れを引き起こすが、それが自発的破れとして理解される可能性を追求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた海外出張(イタリア)が新型コロナウィルスのためにキャンセルになったため。弦理論の専門家であるピサ高等師範学校のサニョッティ教授との議論ができなかったことは非常に残念である。来年度後半には海外出張が可能になることを想定し、出張期間を当初計画よりも長期に設定する。海外出張が依然として不可能である場合には、老朽化したウェブサーバーを更新する。
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