研究課題/領域番号 |
19K03856
|
研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
酒井 一博 明治学院大学, 法学部, 准教授 (10439242)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 2次元重力理論 / JT重力 / KdV方程式 / 行列模型 |
研究実績の概要 |
重力理論の量子化は素粒子理論における大きな目標のひとつである。特に、量子重力理論、あるいはこれを包含する弦理論における非摂動効果の解析は、近年活発に研究がなされている。今年度は昨年度に引き続き、近年再び脚光を浴びているJackiw-Teitelboim重力理論(JT重力)、およびこれを包含する一般の2次元位相的重力理論において、巨視的ループの多点相関関数に関する系統的な研究を行った。JT重力は2次元の重力理論であり、最も単純かつ非自明な量子重力理論として位置づけられる。また4次元の電荷を持ったブラックホールの解析にも用いられる。 2019年3月のSaad-Shenker-Stanfordによる行列模型に基づくJT重力の記述を活用し、昨年度我々は、JT重力が伝統的な一般2次元位相的重力理論の特殊な設定として実現されることを示した。またJT重力理論の他境界分配関数が、伝統的な位相的重力理論における巨視的ループの相関関数そのものであることも明らかにした。 この成果に基づき本年度は、JT重力理論の多境界相関関数を系統的に計算する一般的手法を確立した。2次元位相的重力理論の相関関数の生成母関数は、Korteweg-de Vries(KdV)可積分階層のタウ関数であることが知られている。これを利用し、我々は多境界相関関数を伝統的なKdV方程式のみを解いて計算する方法を構成した。ループ方程式に基づくtopological recursion等の従来の手法と比べ、KdV方程式を用いた我々の手法は非常に計算効率がよく、種数展開(閉弦的展開)、低温展開、't Hooft展開(開弦的展開)を原理的には任意の次数まで計算できる。さらに我々はこの結果をJT超重力(超対称性の入ったJT重力)、一般の位相的重力理論に拡張した。また開いたRiemann面上の位相的重力理論においても同様の手法を構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、リサージェンス構造を用いて位相的弦理論の非摂動効果を調べる予定であったが、位相的弦理論に類似し、かつ、より直接的に重力の量子化を捉えているJT重力理論の研究が近年急速に進展したため、機を逃さずJT重力理論にリサージェンス理論を適用する試みを始めた。リサージェンス構造を見るのに必要な、高種数にわたる分配関数の計算手法を探究する中で、JT重力理論の分配関数に対する新しい系統的な研究手法を打ち立てることに成功した。 さらに本年度の研究で、この手法は一般の2次元位相的重力理論の多境界相関関数にまで拡張できることが明らかになり、幅広いクラスの理論の摂動展開が高次まで実行できるようになった。
|
今後の研究の推進方策 |
我々の手法を用いることで、これまで曖昧なまま放置されていた伝統的2次元重力理論の様々な問題を明快に議論できる可能性がある。今後は2次元重力理論における境界の生成演算子や宇宙の波動関数、弦の場の理論との関係などについて研究を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により参加を予定していた研究会が全てオンライン開催となり、旅費が不要となった。 次年度は可能な範囲で国内を中心とする研究会に参加し最新情報の収集に努め、また適宜計算機設備も更新して、当該研究の遂行に役立てる。
|