研究課題/領域番号 |
19K03859
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
木村 真明 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50402813)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 天体核反応 / クラスター / 不安定核 |
研究実績の概要 |
2019年度は、反対称化分子動力学を用いて、炭素燃焼過程、酸素燃焼過程で重要な役割を果たすと考えられる12C+16O共鳴と16O+16O共鳴の性質を調べた。これらの共鳴を記述する際には、様々な反応チャンネルとの結合を考えるために、4He+24Mgや4He+28Siなど様々なクラスター構造を陽に取り入れた計算を行った。また12Cや24Mgなど変形したクラスターに対しては、その回転効果も考慮に入れた。その結果、実験で観測されている12C+16O共鳴、16O+16O共鳴のエネルギーと崩壊幅のオーダーを再現することに成功した。さらに、12C+16O共鳴については、観測されているよりもさらにエネルギーの低い共鳴が存在することを予言した。この共鳴は崩壊閾値直上に存在するため、酸素燃焼過程の核反応率に影響を及ぼすと考えられる。この成果は、誌上論文としてだけでなく、プレスリリースを行うことで発表した。 不安定核の研究では14Cおよび18Oに、余剰中性子を伴った、新しいタイプのクラスター状態が現れることを議論した。これらの原子核が持つ特殊なクラスター構造は、崩壊パターンを見ることで判別できること、更に鏡映核のスペクトルと比較した際には、大きなThomas-Ehrman effectを示すことからも判別可能であることを指摘した。これらの成果に加えて、13Cの励起状態に表れるクラスター構造の議論や、クラスターからなる希薄なガス状態を記述するための新しい理論の枠組みを提案するなどした。以上の成果は6篇の原著論文として発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
12C+16O共鳴および16O+16O共鳴のエネルギーと崩壊幅の研究を完了し、誌上論文として発表済み、あるいは発表準備中であり、共鳴状態の研究に関する当初計画をおおむね完了している。12C+12C共鳴の研究については、想定していたよりもより多くの計算時間が必要になったため、計画を繰り下げているが、2020年度中には完了する予定である。これは、炭素クラスターの回転効果が、当初考えていたよりも重要であることが明らかになったため、より大規模な数値計算を行う計画へと変更を行ったためである。これら共鳴状態への遷移密度の計算もほぼ完了しており、次年度以降に計画している非弾性散乱の解析の準備も整っている。 また、クラスター共鳴を記述するための新しい枠組みの開発も、ほぼ想定通り進捗している。実時間発展法と名付けた新しい方法を、12Cと13Cに適応してベンチマーク計算を行った結果、良好な結果を得ている。このうち12Cの結果は誌上論文として発表済みであり、13Cについても投稿準備中である。現在この実時間発展法を、散乱の境界条件に接続する方法を開発中であり、もっとも単純な場合である4He+4Heの散乱問題についてテスト計算を開始したところである。順調に進めば、次年度中には物理的に興味のある系(12C+12Cや12C+16O)への適用が可能になると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の主たる課題は次の2つである。(1) 12C+12C共鳴の記述とその性質の解明。反対称化分子動力学を用いた数値計算によって、12C+12C共鳴のエネルギーおよび崩壊幅、崩壊モードを求める。高エネルギー領域で知られている実験データが再現できるかどうか検証するとともに、実験でのアクセスが難しい低エネルギー領域の共鳴を性質を予言することで、炭素燃焼過程に関係する共鳴の性質を明らかにする。定量的な記述を実現するために、変形した12Cクラスターの回転効果と偏極効果の両方を取り入れた数値計算を初めて実行する。さらに、p+23Naや4He+20Neなどの他のチャンネルを陽に取り入れることによって、崩壊モードも精度良く記述する。現在、宇宙論の議論をもとにして、12C+12C核融合反応に関する種々のシナリオが提案されているが、どれが妥当であるか、原子核理論による評価を行う。(2) 実時間発展法の開発と、反応率の評価。実時間発展法でクラスター共鳴を記述するとともに、それを散乱の境界条件に正しく接続することによって、反応率を求めることを目標とする。まずは、記述が比較的容易で、かつ実験データも豊富にそろっている4He+4He共鳴の記述を行う事で、理論の構築を目指す。同じハミルトニアンを用いた他の計算との比較を行う事で、実時間発展法で共鳴のエネルギーと幅を正しく再現できるかどうか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの流行に伴い、予定していた研究会出席を取りやめたため。
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