研究実績の概要 |
2020年度は、反対称化分子動力学を用いて、炭素・酸素燃焼過程で重要な役割を果たす12C+12C共鳴と16O+16O共鳴の研究を行った。また、求めた共鳴パラメータから、天体での熱核融合反応率を求めた。反応チャンネルに現れる様々なクラスターの偏極や回転の効果を陽に取り入れることで、理論の精度向上を図った。その結果、求めた反応率は高温領域での測定値と非常によく一致し、さらに実験による測定が困難な低温領域において信頼性の高い理論予想を示すことに成功した。以上の成果より、微視的な核構造計算から天体での核融合反応率を求めるという、本研究課題の解決に道筋をつけることができた。今後は、同様の解析を進めることで応用例を蓄積してくことになる。以上の成果は3編の査読付き原著論文として投稿済みであり、うち1編は掲載済みである。 また、この研究で開発した理論手法を適用することで、以下の発展的課題に取り組んだ。(1) クラスター形成確率の計算手法を応用することで、48Tiおよび炭素同位体の核表面でのα粒子形成確率を調べた。その結果、核表面でのα粒子形成確率は、単純な平均場近似による予想よりも何桁も大きいことが明らかになった。また、中性子数の増加に伴う中性子スキンの発達に伴って、α粒子形成が抑制されることを示した。(2) クラスターの回転効果を記述する理論手法を応用し、変形した芯核を持つ中性子ハロー(11Be)の構造を記述すると同時に、求めた中性子ハローの波動関数を用いて、クーロン分解反応の計算を行った。(3) クラスター共鳴を記述する理論手法を用いて、24Mg, 26Mg, 28Siの励起状態に現れるクラスター共鳴の共鳴エネルギーと単極遷移強度を求め、実験データとの比較を行った。以上、14編の査読付き原著論文として投稿済みであり、うち11編は掲載済みである。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度の主たる課題は次の3つである。(1) これまでの研究によって確立した「クラスター共鳴を記述し、求めた共鳴パラメータから核融合反応率を求める」手法を、様々な核融合反応に適用することで、研究例を蓄積する。具体的には、12C+12C反応に加えて、当初計画通り12C+16O, 16O+16Oの反応率を求める。また、非共鳴連続状態からの反応率への寄与の見積もりを行うことで、全反応率の正確な記述を目指す。求めたクラスター共鳴のパラメータおよび反応率は、論文として発表するだけでなく、天体核反応シミュレーションで利用しやすいよう、データベース形式にして提供することを予定している。(2) 同じ理論手法を捕獲反応にも適用し、その反応率を求める。具体的には、α過程で重要な役割を果たす、比較的軽い核のα捕獲反応を対象とし、α+22Mg, α+24Mg, α+28Siのα捕獲反応率と粒子放出/光子放出の分岐比を求める。そのために、求めた共鳴のγ崩壊寿命を求める計算プログラムの開発を行う。 (3) クラスター形成確率を求める手法を応用し、核表面でのクラスター形成について系統的な解析を行う。安定-不安定なNe, Mg同位体を対象としてαクラスターの形成確率を調べ、中性子スキンの発達との相関を明らかにする。また、Sc, Ti同位体を対象として3H, 3Heクラスターの形成確率およびその比を求めることで、核物質の対称エネルギーとクラスター形成確率との相関を調べる。
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