研究課題
ブラックホール (BH) から相対論的な速さで吹き出すジェットの生成機構は、天体物理学の未解決問題の一つである。ジェットは太陽の 10 倍から 100 億倍にいたるあらゆる質量階層の BH から見つかっているため、質量に依らない普遍的な物理が働いていると考えられる。そこで本研究は、X線偏光という新しい天体観測手法を用いて恒星 BH を観測し、ジェットのエネルギー源に迫ることを目的とする。本研究手段の要であるX線偏光観測を実現するために、米欧日が共同で推進している衛星計画に参加する。偏光検出の精度および天体数を上げるには装置の高度化が必要であり、機械学習を用いた新手法を考案した。この方法は BH だけでなくあらゆる天体の偏光観測に応用でき、特に光子数の少なくなる高エネルギー側で効果的であり、観測時間を最大で 30% も短縮できることがわかった。これらの成果を論文にまとめて、査読付き学術雑誌に投稿して掲載された。並行して、米日瑞で共同開発した高エネルギーX線偏光計を高高度気球に載せて、南極から放球して周回風に乗せて、天体を観測した。浮力となるヘリウムガスのリークが発生し、予定より短い時間であったがそれでも増光中であった降着駆動型パルサーをのべ 8 時間にわたり観測した。詳細な解析の結果、特に担当したスペクトル解析では天体からの信号を測定できたものの、偏光は検出できず厳しい上限値をつけることができた。これらの成果をまとめて、査読付き学術雑誌から出版した。
2: おおむね順調に進展している
研究手段である天体X線偏光観測の実現において、予定していた機械学習の導入による装置の高度化はすでに達成しており、さらに衛星開発も打ち上げに向けて着々と進んでいるため、順調に進展していると言える。また高エネルギーX線偏光計を改良して、高高度気球に載せて、再び天体観測する計画も進めている。
来たる天体X線偏光観測に備えて、偏光データを解析する手法を開発する。特にスペクトルと偏光をリンクして解析するツールは未成熟であり、気球実験データでは個別に解析していた。それらを統一して解析できるフレームワークを構築し、衛星データも気球データも取り扱えるようにする。また数値計算を用いて、天体偏光観測の実現性を見積もる。
昨今の COVID-19 の影響により、年度末付近に出席予定であった会議および学会が相次いで延期またはキャンセルとなり、それらの出張旅費を次年度に繰り越すことにした。延期された国際学会は出席予定であり、本研究費を使用する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
The Astrophysical Journal
巻: 891 ページ: 70~70
10.3847/1538-4357/ab672c
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Accelerators, Spectrometers, Detectors and Associated Equipment
巻: 942 ページ: 162389~162389
10.1016/j.nima.2019.162389