研究課題/領域番号 |
19K03933
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
新井 彰 国立天文台, ハワイ観測所, RCUH職員 (30582457)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 古典新星 / 高分散分光観測 / リチウム / ベリリウム / すばる望遠鏡 |
研究実績の概要 |
2021年7月に本研究課題の内容の主軸となる研究成果の1つを査読論文として出版した (Arai et al. 2021 Astrophysical Journal, 916, 44)。この研究では、代表者が2015年にすばる望遠鏡のHDS(高分散分光器)を用いて実施した、いて座のV5669 Sgrという新星の近紫外線域の高分散分光観測データを利用した。研究の結果、リチウムの元となるベリリウム7を検出し、史上8例目となる新星の放出物中のリチウム合成の証拠を明らかにしたことが成果の1つである。それに加え本研究では、今回対象とした新星のリチウム生成量は、これまで知られていた中では最も少ないことを明らかにした。この結果は、新星のリチウム生成量に1桁程度もの幅があることを示唆する。これまでの7例の新星のリチウム生成量の推定値は、理論モデルによる新星のリチウム生成量の予想値を大きく上回るものばかりであった。しかし、当研究の結果は、理論計算が示唆する上限値と近いものであり、既存の理論モデルを詳しく検証する上で役立つことが期待され、銀河系における恒星由来のリチウムの供給量を理解する上で重要な観測結果の1つである。当研究成果は、査読論文の出版に加え、新たに新星爆発現象のイメージ図を作成し、京都産業大学および国立天文台からプレスリリース発表を行った(14 備考のWebページ1, 2, 3を参照)。このプレスリリースの内容は複数のメディアに取り上げられた。 また、2021年8月には再帰新星RS Ophの爆発が発見されたことを受け、即応的に分光観測に成功したインドネシアのバンドン工科大学の研究者らと共同で、RS Ophの輝線スペクトルの形状の時間変化を調べ、イジェクタ構造の時間変化を議論する速報記事(査読なし)を報告した(Astronomer's Telegram #14909)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の影響により、当該分野の国際研究会は少なく、渡航制限もあり、国際会議への出張は実現しなかった。1件の査読論文を出版したものの、研究代表者は、2021年度中に国立天文台ハワイ観測所へ所属を変更したこともあり、研究遂行に多少の遅れが生じている。異動に伴って新たな環境で研究を進めるために、今年度は研究予算を活用し、研究環境の整備を中心に行った。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って、既存データを用いて研究を進める。また、国立天文台すばる望遠鏡をはじめとする観測装置を用いた新星の高分散分光観測を実施するために、観測提案の申請を続けていく。また、COVID-19の影響による研究会の開催制限なども徐々に緩和されてきていることから、状況が許す範囲で、国際研究会等で研究成果を報告していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、当初予定していた国際研究会への参加が実現しなかったことが最大の理由である。COVID-19の影響により依然として研究会の開催は少なく、これに加えて、今年度は研究代表者の職場の異動も生じ、国際研究会への参加が実現しなかった。本年度使用額の残額については、次年度の使用額と合算し、次の通り有効な活用を予定している。主に、論文出版費用として利用し、次いでデータストレージおよび解析サーバーの増強に利用したいと計画している。また、当初の予定どおり参加可能な国際研究会が開催される場合には、その渡航費および参加費として活用することを検討したい。
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