研究課題/領域番号 |
19K04050
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
中野 優 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震津波予測研究開発センター), 特任技術研究員 (40314041)
|
研究分担者 |
杉山 大祐 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(情報エンジニアリングプログラム), 技術副主任 (00816184)
桑谷 立 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 研究員 (60646785)
熊谷 博之 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10343758)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 非火山性微動 / 巨大地震の準備過程 / 火山性微動 / 噴火イベント / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本計画の目的は、地震発生帯や火山で観測される様々な地動シグナルのうち、巨大地震の準備過程や火山噴火に伴う特徴的なシグナルを判別する手法を開発し、これらのモニタ能力を向上することにある。巨大地震の準備過程に関連するシグナルとして、プレート境界のゆっくりとしたすべりによって発生する「非火山性微動」が、火山では噴火に伴う特徴的な「火山性微動」が発生する。これらの複雑なシグナルを自動で識別するために、本研究では機械学習を用いる。精度の良い判別手法を構築するには、機械学習で用いるニューラルネットを訓練するためのなるべく多くの学習用データを用意する必要があるが、これまでの研究では約200イベントによる数千のデータで行っていたため、連続した観測データに適用した場合の判別精度は十分ではなかった。「火山性微動」に関しては今年度新たに取り組むため、新規にカタログを用意する必要がある。そこで今年度は「非火山性微動」については新たな検出法を用いて学習用データを増やし、「火山性微動」については噴火イベントの記録を用いて複数の火山でのカタログを作成する事とした。 「非火山性微動」について、これまでは大きなサイズのイベントに伴う超低周波地震のカタログを用いていたが、今年度は地震波エネルギーに基づくイベントの検出によって小さいイベントを含むカタログを作成した。このプロセスにおいて、通常の地震やノイズの除去を目視によって行い、これに時間を要したため、本年度はカタログの作成にとどまった。しかし、新カタログではイベントの数がこれまでの約200から数千と、約十倍に増えた。「火山性微動」については、日本及びコロンビアの火山における噴火記録を用い、噴火にともなうイベントに関してのカタログ作成を行った。これにより、今後開発する手法での判別精度の向上が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、シグナル識別の汎用性と精度を高めるための手法の改良として、既存データに疑似的なノイズを加えることを計画していた。しかし、機械学習によるシグナル判別の汎用性を高めるためには学習データの数を多く、またバリエーションを増やす必要がある。これまでは比較的大きな非火山性微動のシグナルを用いていたが、より小さいイベントを学習データに加えた方が、シグナル判別の汎用性を高められると考え、地震波エネルギー推定に基づく手法によって新しく非火山性微動のカタログを作成することとした。学習データの作成においては、通常地震などの非火山性微動ではない「ノイズ」を目視で取り除く必要があり、これに時間を要したため本年度は学習データのためのカタログ作成までの達成となり、判別モデルの改良まで行うことは出来なかった。噴火に伴う火山性微動のカタログ作成については計画通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は新しく作成した学習データを用い、これまでに開発した、ランニングスペクトルを用いたシグナル判別手法であるSRSpec-CNNの改良を行う。さらに、ランニングスペクトルの作成には計算コストが高いため、これを簡略化するための新しいスキームの導入も試みる。これらを用い、また機械学習のニューラルネットワークに最新の手法を導入するなどして判別精度の向上を試みる。改良した手法を連続波形記録に適用し、判別精度の評価を行う。さらに、疑似ノイズを混入することによる、ノイズ耐性の強い判別システムの構築を行う。新しく構築した手法を非火山性微動および火山性のシグナルに適用し、判別精度の評価とこれらの得意なシグナルの検出率の向上を行う。 次に、より分解能の高い時間-周波数系列データの入力によって、シグナル識別の汎用性を高める。分解能を上げると計算負荷が爆発的に増加するので、適宜間引く等、最も効率的なパラメータの探索も行う。スペクトル以外の観測量(シグナルの分散、歪度、尖度、観測点間の相関、振幅分布等)の入力も検討する。同時に、クラスタリング手法によって、シグナルを特徴づける観測量の関連を調べる。このプロセスは、震源におけるプロセスの理解と判別がうまくいかないときの修正方針を立てるのに役立つ。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた、高速計算ユニット(GPU)の新製品が次年度に発売されることが年度途中になって判明した。上記7で述べたように研究計画に遅れがあり、旧式のユニットを今年度に急いで購入するよりも、時期を待って新型の高性能となったものを購入した方が、今後の研究計画を効率的に実施することが出来ると判断した。新型のGPUは令和2年度に購入予定である。 旅費については、年度末からの新型コロナの流行によって、参加を予定していた研究集会が開催されなくなったため、未使用額が生じた。新型コロナの影響については報告書作成時点で国内において一旦収束が期待されつつあるが、第二波の発生可能性など今後も不確定要素が大きい。従って国内での学会や研究集会の開催は令和2年度においても慎重な検討が行われており、また研究打ち合わせのための出張も禁止されている状況である。使用計画は学会等の開催状況が明らかになり次第、再検討する。
|