研究課題/領域番号 |
19K04100
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
岡根 正樹 富山高等専門学校, その他部局等, 教授 (90262500)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | FSW / 異種金属接合体 / 疲労強度特性 / 自然時効 |
研究実績の概要 |
本研究は,マルチマテリアル構造を視野に入れた,摩擦攪拌接合(FSW)による異種金属接合材の疲労強度特性を検討する研究の一環として,疲労破壊のメカニズムを明らかにし,より高強度で信頼性の高い異種金属接合体を創製するための最適接合条件の構築に寄与することを目指すものである。2021年度は,新たに,①ダイカスト用アルミニウム合金ADC12と機械構造用炭素鋼S45C接合体の疲労特性の検討,②A6063/S45C接合体の軟化領域における自然時効の影響の検討を中心に行った。 ①については,接合体の微視組織を電子顕微鏡(SEM),エネルギー分散型X線分光分析装置(EDS)を用いて観察したところ,母材部では針状のケイ素(Si)が分散しているダイカスト材特有の組織を呈していたが,接合領域(攪拌部)では,Siが細かく砕かれ,粒状に分散していることが明らかとなった。次に,この接合体より疲労試験片を機械加工し,応力比R=-1の条件で疲労試験を行った。その結果,接合材の疲労強度は110MPa程度であり,ADC12材に比べて,15%程度の低下であったこと,すべての接合体において,疲労破壊の発生位置は,接合時におけるADC12内の攪拌部と母材部の境界近傍,もしくは母材部内であった。 ②の検討では,接合界面近傍A6063内の硬さ分布を,接合直後,1週間毎に4週間後まで,4ヶ月後,6ヶ月後に測定し,その変化挙動を検討した。その結果,軟化領域の硬さは, 1週間程度で10%程度回復し,4週間後には20%程度回復。4ヶ月後には,接合後2週間の硬さに比べ25%程度回復し,6ヶ月後にかけては,ほとんど変化がないことがわかった。また,この傾向は,表面近傍の領域の方が顕著に発現することなどがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は,摩擦攪拌接合による異種金属接合材の疲労強度特性を検討する研究の一環として,疲労破壊のメカニズムを明らかにすることを目指している。 2020年度中に,疲労試験中に接合部近傍の変形のようすを非接触でリアルタイムに観察し,定量的な評価が行えるシステム(デジタル画像相関法・DIC)の導入,ならびに,接合部近傍の局所的な構成関係(応力-ひずみ関係)の分布を計測し,接合領域内で機械的性質が連続的かつ変則的に変化しているようすを,構成関係の分布として明らかにするために必要な,超微小硬度計を導入することができた。2021年度は,これらの装置,システムの試運転や調整を行ったが,既設の疲労試験機とのリンクや微調整に,想定以上の時間を要することとなり,本格的なシステムの運用は,2022年度からとなる予定である。一方で,これら新規導入システムの活用を要しない他の検討においては,疲労試験の実施やその特性評価など,概ね,順調に進展していることから,総合的な評価として,当初の予定よりも,やや遅れていると判断するものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでも述べたように,本研究は,摩擦攪拌接合による異種金属接合材の疲労強度特性を検討する研究の一環として,疲労破壊のメカニズムを明らかにすることを目指しており,この方針に大きな変更はない。2022年度は,これまでの検討結果に基づき,①A6063/S45C接合体における疲労負荷過程中の変形のようすのリアルタイム観察とA6063内の構成関係(応力-ひずみ関係)分布の計測,②ADC12/S45C異種金属接合体の基本的な疲労強度特性の検討,を中心に行う予定である。 ①の検討は,2020年度に新規導入されたデジタル画像相関法(DIC)と,微小硬度計(ナノインデンター)を活用した検討であり,これまでの疲労試験で得られた基本的な疲労強度特性と,巨視的な疲労破壊の観察結果を融合させて検討,疲労破壊の詳細なメカニズムを明らかにする試みである。当初は2021年度中の検討開始を目標としていたが,両装置の立ち上げに,予想以上の時間を要したため,本格的な検討が2022年度からとなった。 ②の検討は,今年度得られた,応力比R=-1の条件下での疲労試験に加え,片振りである応力比R=0.1条件下での疲労試験を実施し,基本的な疲労特性や,破壊形態の比較検討を行う。また,前年度までに明らかとなっている,A6063/S45C接合体における特性と比較することで,摩擦攪拌による,展伸アルミニウム合金接合体と,ダイカスト用アルミニウム合金接合体の基本的な特性について,総合的に比較検討するものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
【理由】 次年度使用額が生じた主な理由は,国際会議を含む,種々の学術講演会がすべてオンラインでの開催となり,旅費の使用が生じなかったことによる。 【使用計画】 種々の学術講演会に参加するための旅費については,対面での講演会が開催されるか否かに依存しており,現段階では予測できない。2022年度の主な学術講演会は,今のところ,対面での開催を念頭に,準備が進められており,いくつかの学術講演会には,すでに講演を申込み済である。対面での開催か,オンライン開催かは,今後検討され決定されることから,旅費としての使用は,いまだ,予測不可能な状態にある。一方で,研究遂行にかかる種々の実験やデータ解析等の検討は問題なく実施できるものと考えており,それらに必要となる各種の備品,消耗品の購入等で,使用する予定である。
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