研究課題/領域番号 |
19K05034
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
兼子 佳久 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (40283098)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気めっき / 傾斜材料 / 多層膜 / 硬さ |
研究実績の概要 |
Ni/Cu多層膜は高温で焼鈍すると強度は大幅に低下するが、低温で短時間焼鈍を行うことで、硬さが増加することが報告されている。これはNi層とCu層の相互拡散により、界面近傍に薄い拡散層が形成されたためと指摘されている。しかし、その強度発現機構は依然不明である。 2019年度は、焼鈍で拡散層形成が難しいCo-Cu合金において拡散層(すなわち傾斜組成層)を形成させるため、連続的に変動する電位を利用した。CoイオンとCuイオンを含む電解液を利用した電気めっきでは、析出物の組成が電位に依存するために、めっき時の電位を変動させれば、傾斜組成層を形成することが可能になると考えられる。 電気めっきには、硫酸コバルトと少量の硫酸銅を溶解させた水溶液を用いた。まず、電位と析出物組成との関係を調査し、-800 mV vs SHEから-600 mV vs SHEの範囲でCoの成分が0%から約70%まで連続的に変化することを確認した。電位の最大値を-400mV vs SHE、最小値を-1000 mV vs SHEとした三角電位波を付加しためっき膜の断面をEDSで分析した結果、一部で傾斜組成領域が形成されていることを確認した。 様々な三角電位波で成膜したCo-Cu膜のビッカース硬さを調査した結果、硬さは電位振幅と平均電位に依存することが明らかになった。具体的には、薄いCu層と高い平均Co濃度を有する傾斜組成めっき膜が高い硬さを有することが分かった。同じ平均Co濃度を有する均一合金めっき膜との比較では、傾斜組成めっき膜はそれらより優れた硬さを有することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
傾斜組成めっきを可能にする精密めっきシステム自体はほぼ完成しているので、成膜装置自体は順調に開発が進んでいる。R1年度は、電位振幅、平均電位、周波数を自在に変化させた三角電位波形を作成できることを確認し、実際にそれらを使って様々な内部構造の傾斜組成Co-Cu合金めっき膜を成膜することができた。 任意の濃度変動を有するめっき膜を成膜するためには、付加電位と析出物組成との関係を事前に把握しておく必要がある。本課題ではCo-Cu系についてこの関係を得ることができた。また、この電位ー析出物濃度関係を用いて、周期的電位波形から組成の変動をシミュレートできる計算手法も開発した。しかしながら、長時間の電位波形で実際に作製しためっき膜では、シミュレート結果とずれが生じることが判明した。このずれは、長時間低電位(すなわちCu-rich合金の析出電位)で析出を行うと、低濃度なCuイオンの枯渇が生じることが原因と推測された。 周期的濃度勾配を有するCo-Cuめっき膜では、低強度のCu-rich部分が薄く、強度が高いCo-rich部分のCo濃度が高いほど硬さが優れているという結果が得られた。これは他の合金系でも適用可能な考えであり、組成変動に対する指針が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
電解液中の濃度が低いCuイオンのめっき中の枯渇を低減するために、連続的に変化する電位の途中に電流が流れない休憩電位を挿入することと検討する。休憩電位の挿入により、電解液の撹拌によって作用電極表面近傍で枯渇していたCuイオン濃度が回復することが期待される。それにより、電解液濃度が一定に近い条件で電気めっきを継続することができると考えている。 R1年度の研究で、Cu-rich層の厚さやCo濃度が硬さに影響を及ぼすことが明らかになった。R2年度は、傾斜組成層の厚さや濃度勾配の大きさが硬さに及ぼす影響も調査し、濃度勾配めっき膜の硬さに及ぼす内部構造の因子を徹底して明らかにすることを目指す。また、傾斜組成めっき膜の硬さは優れることが判明したので、より実用的な特性の調査にも取りかかるようにする。具体的には、すべり摩擦試験を実施し、均一めっき膜と傾斜組成めっき膜の重量減少を比較することで、その耐摩耗性を評価したい。 R1年度はCo-Cu系について調査したが、Ni-Cu系やCr-Ni系でも同様な濃度変動を電位制御で実現できる可能性があるので、それらの合金系についても周期的に濃度が変動しためっき膜の作製を試みることを目指す。
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