研究課題/領域番号 |
19K05209
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
水口 朋子 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 准教授 (90758963)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 動的反応力場 / 分子動力学シミュレーション |
研究実績の概要 |
多くの理論的・実験的研究により、閉じ込められた水の特性はバルク水の特性と大きく異なることが分かっている。イオンチャネルやドラッグデリバリーなど様々な応用のために、閉じ込めが水に与える影響を適切に評価することは重要である。本課題では、炭素構造体中の過冷却水を対象とした分子動力学(MD)シミュレーションを実行し、界面の水への影響を明らかにすることで、細孔内実験で観測される過冷却水の異常な振る舞いのメカニズム解明を目指す。まずは、炭素構造体として単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を用い、動的反応力場(ReaxFF)による計算を行った。ReaxFFは量子化学計算レべルで作られたパラメータを用いることで、原子間結合の開裂・再結合の古典MDにおける取り扱いを可能にし、界面を含めたシステムを精度良く計算することができる。今年度は、本格的な計算に入る前に、4つのReaxFFパラメータの比較を行い、その適性を確認した。水中にSWCNTを配置して、300 K,1気圧で計算を実施したところ、パラメータによって水がSWCNT内に流入する速度が違うことを明らかにした。2つの力場では速やかにSWCNT内に水が流入した。残る2つの力場の一方は、時間をかけてゆっくりと水が流入していく様子が見られた。最後の力場は水が流入しなかったため、水をCNT内に詰めた状態から始めたところ、水が流出した。実験によると、水は自発的にCNT内に流入することが分かっている。このことから、最後の力場はCNT内の水を扱うモデルとしては適切でないと判断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、細孔内実験で観測される過冷却水の異常な振る舞いのメカニズム解明に向けて、界面の水に対する影響を精緻に明らかにすることである。そのために、疎水性細孔のモデルとしての炭素構造体中の水のシミュレーションを行う。まずは、炭素構造体としてカーボンナノチューブ(CNT)を採用し、動的反応力場(ReaxFF)を使用して簡単な計算を行った。その目的は妥当な力場を選択するためである。申請者は、本課題に関連した研究として、すでに親水性細孔のモデルとしてメソポーラスシリカを用いたReaxFFシミュレーションを行っている。その中で、実験値を再現するのに力場パラメータの選択が非常に重要であることが分かっている。そこで、CNTでの本計算を始める前に、複数の力場パラメータを用いてCNT内への水の流入速度の比較を行った。その結果から、本格的な計算を始める前に、今回の系に適切な力場を選択することに成功した。今後は、選んだ力場を用いて、計算を実行するのみである。
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今後の研究の推進方策 |
適切な力場が選択できたため、今後は長時間のシミュレーションを実行し、親水性細孔に使用した解析手段を用いて、界面からの影響を調べる。まずは、常温の水についての解析を行い、実験値と比較する。次に、温度を下げていき、過冷却水で実験と同じ現象が見られるかを確認する。さらに、界面からの水への影響が、温度とともにどう変わるかを明らかにする。その際、水素結合ネットワークの変化に着目する。親水性細孔でも水素結合の解析を行ったが、ネットワークの解析は難しいため、浅い理解に留まっていた。本課題では、機械学習を利用した水素結合ネットワークの解析を試みる予定である。また、炭素構造体の別のモデルとして、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)構造体を作成する。自ら作成したDLC構造体の構造については、妥当性について検証が必要である。実験との比較だけでは不十分であるので、第一原理的な計算と組み合わせる。DLCは、炭素原子の結合形式や水素原子の含有量によって性質が大きく変わるため、複数の構造でシミュレーションを行うことによって、界面の性質の違いが水へ与える影響について、体系的に理解することが可能であると考える。
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