研究実績の概要 |
本研究の目的は、反応分子動力学法を用いて、炭素構造体中に閉じ込められた過冷却水の性質を解析し、狭い空間に閉じ込められた過冷却水の異常な振る舞いを説明することである。今年度は、(1)水と同様にナノスケールの閉じ込め系でガラス化が可能なシクロヘキサンにおいて、シミュレーションで過冷却液体の局所構造を調べた結果を論文として発表した("Icosahedral order in liquid and glassy phases of cyclohexane", TM et al., Mol. Sim. 46, 721, 2020)。局所構造は、閉じ込め系で示す性質に重要な寄与をすると考えられる。本論文では、ボロノイ解析を用いて局所構造を解析し、歪んだ二十面体構造が支配的であることを明らかにした。さらに、二十面体構造の繋がりとしてクラスターを定義し、ネットワーク構造の成長を観測した。ここで用いた手法は、閉じ込め系の過冷却水の解析に使う予定である。さらに、(2)反応分子動力学法を用いて、水素を失ったポリエチレンの構造変化を調べ、論文として発表した("Structural change of damaged polyethylene by beta-decay of substituted tritium using reactive force field", H. Li et al., Jpn. J. Appl. Phys. 60, SAAB06, 2021)。失う水素原子の数が多いほど、構造の崩壊度合いが大きいことを定量的に示した。結合の生成や開裂を解析する手法などを、炭素構造体中の水の解析に使う予定である。さらに、カーボンナノチューブ内の水の移動について、自由エネルギー計算を行うための、系の構築と計算手法に関する検討を行った。
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