研究課題
ヘテロ原子を有する環状化合物の立体選択的な合成法の進化と発展は生命科学や医薬品開発において非常に重要である。なかでも、ヘテロ原子のα位炭素カチオンを鍵中間体とする反応は最も汎用される分子変換法である。申請者らはこれまでに、自らが開発した「インダイレクトカチオンプール法」を用いて、ピペリジン由来のN-アシルイミニウムイオンの立体配座をNMRではじめて直接観測することに成功するとともに、求核剤の違いにより真逆な立体化学をもつ化合物が高選択的に生成する非常に不思議な現象を見出した。本研究では、「インダイレクトカチオンプール法」の特長を生かした取り組みを通じて、この現象の機構解明に取り組んでいる。これまでに、①イオン反応において重要な因子である対イオン(この場合には対アニオン)を変えて、反応の選択性を調査し、立体化学の逆転現象が対アニオンに大きく依存した現象であることがわかった。また、この結果およびこれまでNMR測定によってわかっているN-アシルイミニウムイオン自体の立体配座をもとに、計算化学による遷移状態モデルを得た。さらに、③この逆転現象がアリル化以外の反応でもおこり得るかを調査し、メチル化やフェニル化においてもが逆転がおこることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
上記の不思議な立体化学の逆転現象については、これまでの基盤研究においても機構解明に取り組んではきたが、最終的な結論には至っていなかった。本年度は、イオン反応において重要な因子である対イオン(この場合には対アニオン)を変えて、反応の選択性を調査した。通常、化学的な方法で発生させたN-アシルイミニウムイオンの対アニオンは反応剤の性質に依存するため、多様な対アニオンを用いた反応化学の研究は困難である。これに対して、電解反応を用いる手法では、通常、カチオン種の対アニオンは支持電解質の対アニオンから供給されるため、多様な対アニオンを使った反応探索を容易に行うことができる。詳細な検討の結果、立体化学の逆転現象が対アニオンに大きく依存した現象であることが明確になり、また、これまでのNMRによる構造解析でわかっていたN-アシルイミニウムイオン自体の構造データもとに、計算化学による遷移状態モデルも得た。さらに、クプラートを用いたメチル化やフェニル化においてもが逆転がおこることがわかった。
立体化学の逆転現象については、これまでの研究をもとに、より詳細な実験データ、計算データを積み上げるとともに、さらに異なる有機金属反応剤を用いて、現在考えている反応機構が正しいかどうかを検証し、同時に、より汎用な合成的プロトコールの創出をめざす。今回取り上げる環状アルカロイドのような生物活性化合物の合成では、単一の立体化学をもつ純粋な化合物をいかにシンプルかつ簡便に合成するかは、極めて非常に重要な課題である。現在、本研究では1つのアキラル化合物を出発として4種類の光学的に純粋な化合物の不斉合成にも取り組んでいる。4つの立体異性体を一挙に純品で得る方法を提示したい。現在、エナンチオ選的脱プロトン化によるSPh基の導入を基軸とする「インダイレクトカチオンプール法」前駆体合成、および本研究の主題である立体化学の逆転現象を組み合わせて、4つの立体異性体を一挙に純品で得る手法の開発を推進している。
成果発表の機会として、R2年度に国際学会での発表(海外出張)を計画したため。しかしながら、現状では新型コロナウイルスの影響で開催自体が不透明なため、もし、開催が延期になった場合には、R3年度への繰り越し、あるいは、不足している消耗品の購入にあてる。
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