研究課題
円偏光発光(CPL)は、キラリティを持つ発色団による右円偏光と左円偏光のどちらかを多く含む発光を指し、3次元ディスプレイの発光素子への応用が期待されている。CPLを示す化合物には、これまでに光学活性ランタノイド錯体、面不斉や軸不斉を有する多環芳香族化合物などが知られている。これらは発光強度が弱いことや多工程合成プロセスになることなどが問題点として挙げられる。一方、元素不斉を持つ単純な有機化合物が効率的にCPLを示す例は報告されていない。また、CPLの多くは蛍光を利用するものであり、より強輝度な燐光を利用したCPLの例は数少ない。本研究では、不斉ケイ素原子を有する光学活性芳香族3級シランを合成し、高い蛍光強度と良好なCPL特性を持つ分子について検討した。この研究を発展させ、燐光を発する官能基(具体的には白金錯体)を側鎖に導入した光学活性芳香族4級シランを合成すれば強輝度のCPL材料として利用した。具体的にはキラルなホスフィン配位子で構造修飾したパラジウム触媒を用いて2級シランから2種類のヨウ化アリールを逐次的に反応させることにより光学活性4級シランを合成した。次に、置換基として燐光を発する白金錯体部位を不斉ケイ素原子上に導した。4級化反応により3級シランと比較して水素原子よりもはるかに立体的に大きい置換基を導入できるため、ケイ素原子周りのキラリティ性が向上する。本手法で合成した光学活性ケイ素化合物を再結晶にて光学的に純粋(>99%ee)にした後に吸収、燐光、CD、及びCPLスペクトル測定を行った。合成した分子単結晶X線構造解析により白金-白金間の分子間相互作用存在が確認され、この相互作用の有無により、CPLもわずかながら変化した。この現象を利用して、固体状態での温度、圧力、溶媒蒸気などの弱い外部刺激によるパッキング構造とCPL特性の連動変化について調査する予定である。
2: おおむね順調に進展している
関連する研究論文を投稿しており、研究は順調に進展している。
本研究の応用として、微弱な圧力変化、温度変化など外部刺激でCPL特性が変化する分子を開発し、内視鏡へ導入すれば3次元映像手術に展開できるので医療分野へも貢献できる。
コロナ禍、ウクライナ情勢にて有機ケイ素原料の試薬や不活性ガス(ヘリウム、GC=MSのキャリアガス)の納入が著しく遅れたことにより、一部の実験を2022年度に繰り越して行う。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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