当該年度は以下の景観スケール及び局所スケールでの研究成果をまとめた.北八ヶ岳麦草峠周辺の亜高山性針葉樹林で、赤外線カメラによりニホンジカの行動を4年半にわたって調査したところ、着葉期(6~10月)はほぼ毎日出現していたが、冬季の1~4月はほとんど出現しなかった。ニホンジカの出現場所には差があり、出現が少ない場所は林床にコケが優占していた。出現しにくい場所の条件を探索したところ、ニホンジカは、岩場のような歩きにくい場所を避けており、そのような場所ではササや単子葉植物などの餌資源が豊富であっても、出没しにくかった。つまり、歩きにくい環境の創出はニホンジカの食害を一定程度回避できる可能性が考えられた.北八ヶ岳における1959年の伊勢湾台風後、倒木搬出をした場所ではササ草原が大きく拡大した。そのササ草原が現在のシカの主要な採餌場所となっていると考えられ,伊勢湾台風前から現在の草原の分布変化をGISにより調査・解析を行い,現在の草原の分布が景観スケールでのシカの分布や樹木への樹皮剥ぎに与える影響を検証したところ,各トランセクトの林床は、ササ型、グラミノイド型、コケ型に大別された。糞塊密度は、ササ型、グラミノイド型、コケ型林床の順で高かった。各トランセクトから一定距離以内の草原面積と樹皮剥ぎ率の関係を解析した結果、周辺の草原面積が多いほど樹皮剥ぎ率が高く、2.3km以内の草原面積が最も説明力が高かった。また、樹皮剥ぎ率は糞塊密度が高いほど高かった。これらの結果は、60年以上前の風害とその後の倒木搬出によって拡大したササ草原が、現在のシカの分布や利用頻度にも影響していることを示しているものと推測した.
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