本研究では房総半島を中心に自生地で生育するノリ養殖対象種や近縁野生種などの分布状況を把握するとともに、種間交雑による異質倍数化したハイブリッドの探索を行い、育種素材の収集に取り組む。また、収集したハイブリッドから異質倍数化した系統保存株を確立し特性把握を行うことを目的としている.令和3年度は、採集場所とサンプル数を増やして葉緑体rbc-spacer領域と核DNAマーカー解析を行った結果、東日本の太平洋側でスサビノリ×アサクサノリの種間交雑体を多く見出すことができ、長期保存培養できるハイブリッド糸状体株の分離・確立を行った。これらハイブリッド糸状体から培養された殻胞子由来および原胞子由来の葉状体を核DNAマーカーで解析した結果、新たに複数の野生ノリ生育地で異質倍数体が存在することを明らかにした。このことから、東日本の太平洋側では、広範囲にスサビノリ×アサクサノリの異質倍数体が分布していることが示唆された。また、異質倍数体の生育地の1箇所で、異質倍数体のほか祖先種のスサビノリとアサクサノリも同所的に生育していたため、アマノリ属でも同所的種分化が起きていることも推測された。さらに、ハイブリッド糸状体から培養された原胞子由来の葉状体を自家受精させて分離した異質倍異数株の中で、同所的に生育してた祖先種のアサクサノリに比べて、高生長かつ稔性が低く、色素含量の高い株も見つかった。このことから、前年度とは異なる野生ノリ生育地でも、ノリ養殖にとって有用形質を持った異質倍数体株を見出すことができた。
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