研究課題/領域番号 |
19K06226
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
阿見彌 典子 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (20588503)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イカナゴ |
研究実績の概要 |
(1)夏眠開始要因特定のため,累積水温の関与を調べるとともに,夏眠を開始させる水温条件の特定を試みた.自然水温,16℃,15℃一定条件で飼育した.北里大学に搬入後の累積水温値に加えて,搬入前(1-4月)の累積水温値を加算すると,自然水温群は3480,16℃一定群は3883℃,15℃一定群は3667となった.以上の結果とこれまでの研究結果から,瀬戸内海に生息するイカナゴの夏眠の発現を決める基準水温は13-14℃と考えられた.(2)夏眠生態を明らかにするために,水分・タンパク質・脂質含量からエネルギー量を算出し,夏眠前から後にかけてのエネルギー量の変化を調べた.エネルギー量は夏眠前~後にかけて減少した.繁殖期の魚体のみのエネルギー量は雌でのみ減少した.一方,エネルギー量(魚体+生殖腺)に変化は無かった.以上より,イカナゴでは夏眠開始から終了に伴いエネルギー量が減少すること,精子成熟より卵成熟によりエネルギーが必要であることが示された.(3-1) 夏眠の指標物質となる可能性の高い血中レプチンの測定系の開発を開始した.これまでに同定したイカナゴレプチンのアミノ酸配列情報を基に,抗レプチン抗体,レプチン抗原,ビオチン標識レプチンを作製した.ドットブロット法により抗体の特異性を検討した結果,特異性に問題ないことが確認され,現在,測定系の確立中である.(3-2)夏眠開始前の脳内メラニン凝集ホルモン(MCH)濃度は,夏眠開始直前・開始後に低くなる傾向があった.夏眠期間中においては,終盤にかけて高くなる傾向があった.給餌量は夏眠開始直前にむけて減少傾向を示したが,遊泳個体数は夏眠直前まである程度の数が維持されていた.無給餌実験による結果から脳内MCH濃度はイカナゴの摂食促進に関与している可能性が高いことから,イカナゴの摂餌活性に関わる脳内MCHも夏眠の指標物質となる可能性が見いだされた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
飼育実験,行動解析およびホルモン解析など全て問題なく遂行できている.夏眠は,まず先に摂餌活性が抑制され,続いて遊泳行動の発現が減少することで開始される可能性も見いだされた.これらの行動変化も夏眠の指標の1つとすることで,より詳細にイカナゴにおける夏眠の生理学的制御機構の解析が可能となる.また,累積水温仮説はほぼ立証できた.高水温実験の予備実験も終了しており,遂行に問題ない,今後は,レプチンの測定系の確立と人工授精技術の向上に努め,引き続き研究を進める.
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今後の研究の推進方策 |
実験予定課題に関しては,仮説通りの結果を得ている.したがって従来の方針通りに研究を遂行する.また,予想していた結果に加えて,新たに見いだされた夏眠開始前から開始時における行動の指標などを次年度の研究に活かし,より詳細にホルモンの変動結果と合わせて解析する.また,資源回復への貢献に加えて掲げている,夏眠・冬眠・休眠の進化的背景の理解には瀬戸内海に生息する個体と,他の海域に生息する個体との行動および内分泌的な比較が重要となる.これら地域差を考慮しつつ,引き続きイカナゴの夏眠,成熟およびその内分泌機構の解明に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
瀬戸内海イカナゴの生態と比較するためのオホーツク海イカナゴの採集,北里大学への輸送,飼育実験が2020年度実施になった.また,レプチン測定系の確立において,抗体等の納品日が年末になったため,特異性の検討は年度内にできたが,測定系の確立は引き続き2020年度にも行うこととなった.以上の理由により研究費の次年度使用が生じたが,研究内容に変更はないため,引き続き予定通り遂行する.
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