研究課題/領域番号 |
19K06258
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森高 正博 九州大学, 農学研究院, 准教授 (20423585)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 農産物バリューチェーン / 契約農業 / 取引費用論 / 契約理論 / AHP / 東南アジア |
研究実績の概要 |
本年度は、東南アジアの調査先国において実態調査を実施する予定であったが、コロナ禍のため、渡航しての新たな調査は実施できなかった。すでに実施していたミャンマーにおける輸出用冷凍野菜の契約栽培に関するヒアリング調査について、ホウレンソウを対象としたリモートでの追加ヒアリングを行い、昨年度のオクラでの分析同様、取引コスト論、契約論を理論的背景として、DAG(Directed Acyclic Graph)による因果ダイアグラムを構築し、契約栽培の機能と問題点について解明を試みた。 ホウレンソウはオクラと異なり、地元市場がなく、流通は冷凍野菜としての輸出向けチャネルのみに限定されていること、農家にとっての栽培経験がないため、農家の技術面および継続性についての不確実性が存在することから、契約においては、企業側からの管理程度の高い内容が採用されていた。このこと自体は取引コスト論の観点からは妥当な契約選択と言えるが、実態として、契約開始から2年目、3年目に主要産地において契約を打ち切る農家が多数発生しており、企業側が調達量を確保するために調達産地を広げる必要に迫られていた。このように契約の継続性に問題を抱える結果となった理由について、DAG分析からは、収穫時期の管理において、企業側のリスクを減らすための管理システムが、農家側の収入リスクを増やすものとなっており、リスクシェアリングの不均衡が主要な原因となったことが推察された。本研究結果は、学会にて報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
全研究期間を通して、契約農業について、普遍性・共通性の高い評価基準で取引関係を数量化し比較分析することを目標としている。初年度は、東南アジアにおいてこれまで調査された契約農業事例の再整理を行うとともに、AHPを用いた数量化を適用するための問題点整理を行う期間としていた。AHP適用における問題克服の具体的方法が得られたので、次年度でのテスト的な調査実施に進むことが可能となった。 2年度、3年度は東南アジアの調査先国において実態調査を実施する予定であったが、コロナ禍のため、新たな現地調査を実施できなかった。コロナ禍の収束が見えないなか、現地調査が実施できない期間が長期に及ぶことが危惧されたため、リモートでの調査実施の可能性を模索することとした。ただし、現地調査スタッフを通してのヒアリングでは、十分に要点が伝わらない懸念があり、問題構造の視覚的な表現をとおした問題意識の共有を図る手段について、検討を進めた。 また、既に基礎的な調査が終わっていた事例について、リモートでの追加調査をすることで、対象事例の契約の構造と課題の解明に努めた。ただし、本研究課題の目的であるゲーム理論をベースとしたモデルとAHPを融合した評価枠組みの構築には、現地調査が不可欠である。現地調査スタッフとリモートでの合同調査の検討を進めており、令和4年度は、ベトナムで現地調査スタッフの確保が可能となる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、現地調査スタッフと共同で、リモートでの現地ヒアリングを行う計画である。調査は農家あるいは農家団体へ2回、買手企業2回の計4回を予定する。それぞれ1回目のヒアリングは、事業者の概況、契約内容、取引チャネル、チャネル評価、契約に関する戦略の候補、について把握する。これを基にAHPによる調査票を作成し、第2回目調査において、AHPの調査を実施し、事業者の利得構造を把握する。 調査では、現地調査スタッフの適切なヒアリングに負うところが大きくなるため、ヒアリングでは事前に半構造化された調査票を用意し、質問の意図と深堀りする質問の方向について、研究代表者との入念な打ち合わせを行う必要がある。また、第1回調査後の実態の整理には十分な時間をかける必要があり、必要に応じて、リモートでの追加ヒアリングを実施する。また、AHPの調査においては、被調査者への適切な説明、回答誤差を小さくするための被調査者へのサポートが不可欠である。現地調査スタッフとの事前の打ち合わせ、訓練を周到に行った後、AHPの調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、東南アジアの調査先国において実態調査を実施する予定であったが、コロナ禍のため、新たな現地調査を実施できず、旅費の支出が発生しなかったた め。
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