研究課題/領域番号 |
19K06381
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
鬼頭 克也 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80270974)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | フコイダン / 血小板凝集 / チロシンキナーゼ依存性経路 / G蛋白質結合受容体 / 組織因子経路阻害 / オキナワモズク / イヌ |
研究実績の概要 |
オキナワモズク由来のフコイダンは健康犬の血小板を凝集する。高分子量(約30万)フコイダンによる血小板の凝集には、非受容体型チロシンキナーゼのSrc family kinase(SFK)およびspleen tyrosine kinase(Syk)と、さらにその下流にあるホスホリパ一ゼC(PLC)が活性化するチロシンキナーゼ依存性経路が関与していることを、これまでに明らかにした。今回は、中分子量(約5万)フコイダンによる血小板凝集が、選択的Gq/11阻害剤で減弱するとともに、SFK阻害剤およびSyk阻害剤の処置によっても減弱することを明らかにした。これらの結果は、フコイダンが犬の血小板をチロシンキナーゼ依存性経路とG蛋白共役受容体を介した経路の協働作用により凝集する可能性があることを示唆する。 ついで、犬の血小板膜上にあるフコイダン受容体を同定するために、コラーゲン受容体GPVIアンタゴニスト(Anti-GPVI、JAQ1/Rat IgG2a)およびC-type lectin receptor 2(CLEC-2)受容体アンタゴニスト(CLEC-2 antibody、clone AYP1)を前処理して凝集態度の変化を観察した。しかし、これまでのところ再現性のある有意な結果を得ることができず、受容体を同定するに至っていない。 一方、止血機構には、組織因子経路インヒビター(TFPI)が凝固外因系を抑制してトロンビン産生を阻害する機序が存在する。そこで、健康犬の血漿に遺伝子組み換え型ヒトTFPIを添加して凝固時間を延長させ、これにフコイダンを添加したところ、濃度依存性に凝固時間が短縮した。この結果から、フコイダンは血小板を活性化するだけでなく、TFPIの阻害により向凝固能の亢進(トロンビン産生の亢進による出血抑制機能)を発揮することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
血小板の凝集機序に関する研究報告の大多数は、ヒトやマウスの血小板を用いて行われており、犬の血小板を用いた報告は少ない。本研究課題は、ヒトやマウスの血小板と犬の血小板が基本的に同じ機構で活性化するとの仮説のもとで、ヒトやマウスでの研究手法を応用して、フコイダンによる犬の血小板活性化機構の解明を目指したものである。しかし、ヒトやマウスで用いられてきた抗体等の試薬あるいは手法の多くが、犬には応用できないことが分かった。したがって、犬の血小板活性化機構や受容体を解明するためには、今後、さまざまな試薬あるいは手法を検討していかなければならない。 なお、COVID-19感染拡大による大学キャンパスの全面閉鎖により、2020年3月末から6月末までの3ヶ月間、研究活動(実験)が停止していたことも現在の進捗状況に影響した。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きフコイダンを認識する血小板受容体を同定することを目的に、GPVI、 CLEC-2だけでなくGP1Bα受容体、G蛋白共役受容体も対象にして検討を進める。また、フコイダンの分子量による活性化機序の違いを明らかにするとともに、フコイダンの濃度ならびに硫酸化度の違いによっても、血小板凝集機序が異なるか否かの検討も行う予定である。 つぎに、今回、フローサイトメトリー法を用いた血小板活性化の解析方法(P-selectin発現、PAC-1発現)の検討に着手することができたので、今後、フコイダンによる血小板由来マイクロパーティクル(PDMP)の放出と血小板膜リン脂質の発現を、同法を用いてin vitroで解析し、活性化血小板による凝固能促進(プロコアグラント)を評価する。 さらにフコイダンはTFPIの阻害により出血抑制機能を発揮することが示唆されたので、血小板由来のTFPIがこれに関与しているか否かを検索する手法を構築する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大によるキャンパス閉鎖により、3ヶ月ほど研究を停止せざるを得なかったためである。また、フコイダンによる犬の血小板シグナル伝達機構の解明およびフローサイトメトリー法よる血小板活性化評価法に必要な試薬、手法等の見直しのため、それに係る予算の一部を次年度に繰り越した。その残金は当該機序を解明するために使用する予定である。
|