本研究の主目的は,1)フコイダンによる血小板活性化機序の解明,2)活性化血小板による組織因子経路インヒビター(TFPI)阻害と血液凝固能亢進の証明,3)犬に経口投与したフコイダンの吸収動態と血小板活性化の検証である。 5年度は,血友病罹患犬を対象に高分子量(約30万)及び中分子量(約6.7万)フコイダンによるTFPI阻害作用について検討した。その結果,高分子量及び中分子量フコイダンはいずれも濃度に依存して希釈プロトロンビン時間(dPT)を短縮し,TFPIを阻害したが,中分子量の作用は高分子量に比して弱かった。また,健康犬3頭に高分子量フコイダンを56日間経口投与(40mg/kg/day)し,血液凝固能の変化をdPTで評価したところ,投与後28日まではdPTが短縮した。しかし56日目に2頭のdPTは延長に転じた。これらの結果は,フコイダンを血友病罹患犬に経口投与した場合の止血機能改善効果が高分子量で強く,フコイダンの長期投与によって効果が減弱することと一致する。 研究期間全体の成果は,1)抽出法により組成(特に硫酸化度)の異なるフコイダンでは,犬の血小板を活性化する強度と機序(チロシンキナーゼ依存性経路とG蛋白共役受容体を介した経路)が分子量によって異なることを明らかにした。血小板の活性化には2つの経路が関与することから受容体は単一ではないことが考えられる。2)フコイダンはTFPIの阻害により血液凝固能を亢進し,フコイダンにより活性化した血小板は,表面にホスファチジルセリンを発現し,血小板由来マイクロパーティクルを放出することで凝固能を高めることを示した。3)フコイダンを犬に経口投与した場合,投与後の血小板機能と血中濃度に有意な関係は認められなかったが,dPTによって凝固能亢進を把握できることを明らかにした。本研究の発展により,血友病で頻繁に生じる自然出血の予防が可能となる。
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