研究課題/領域番号 |
19K06600
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
宮澤 淳夫 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (60247252)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経筋接合部 / アセチルコリン受容体 / 相関顕微鏡法 |
研究実績の概要 |
これまでに開発した電子顕微鏡で観察可能な遺伝的コード化標識法を、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の足場タンパク質であるrapsynに施し、透過型電子顕微鏡でrapsynの局在を観察する検討を行った。方法としては、メタロチオネイン3分子をタンデムに連結させた3MTタグを遺伝的にrapsynに融合して、マウス筋芽細胞(C2C12細胞)に遺伝子導入し、筋管細胞へ分化させた。硝酸銀と硫化ナトリウムを含む培養液中で、3MTタグ融合rapsynを発現させ、蛍光標識したnAChRを蛍光顕微鏡で観察した後、固定、脱水、樹脂包埋して超薄切片を作製した。透過型電子顕微鏡で超薄切片を観察した結果、nAChRに由来した蛍光が観察された部位の細胞膜直下で特異的に、電子密度の高い領域が検出されたことから、3MTタグを用いてrapsynの局在を電子顕微鏡で可視化できたことが推察された。nAChRなどの細胞表面に発現しているタンパク質では、生きている無傷の細胞に対して免疫金標識を行うことができるが、rapsynのような細胞内タンパク質では、金粒子結合抗体の細胞内への透過処理が必要であるため、細胞の微細形態を保持したまま免疫標識を行うことが困難であった。3MTタグを利用することにより、微細形態を保持したまま細胞内タンパク質の局在を透過型電子顕微鏡で解析できる可能性が示された。 また、神経筋接合部(NMJ)の培養シナプスモデルの作製に必要な、分化の進んだ筋管細胞を効率良く得るために、マウスES細胞から筋管細胞への分化誘導条件の最適化を行った。マウスES細胞から作製した胚様体へのポリアミンの添加時間と添加回数について調べたところ、48時間のポリアミン添加では、分化した筋管細胞が観察された一方で剥離した細胞が多く、12時間では、分化開始までに長期間の培養が必要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、(1)NMJの培養シナプスモデルの作製、(2)光学顕微鏡およびクライオ電子顕微鏡によるNMJの相関観察法の確立、(3)NMJの構造と機能に関わる分子メカニズムの解明という3つの目標を掲げている。3年間の研究期間の初年度(2019年度)に、「(1)NMJの培養シナプスモデルの作製」をほぼ達成でき、「(2)光学顕微鏡およびクライオ電子顕微鏡によるNMJの相関観察法の確立」において、光学顕微鏡を用いた経時的な分子の観察法が確立していた。2年目(2020年度)では、「(1)NMJの培養シナプスモデルの作製」について、筋管細胞への分化誘導条件のさらなる最適化が進められ、また、「(2)光学顕微鏡およびクライオ電子顕微鏡によるNMJの相関観察法の確立」については、電子顕微鏡で局在を解析するためにどのように標識するかが課題事項であった、細胞内タンパク質であるrapsynについて、遺伝的コード化標識法を利用して、生きている筋管細胞で標識を施し、電子顕微鏡で観察する検討を行うことができた。これらのことから、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
GFP融合rapsynを定常的に発現する筋管細胞表面のnAChRおよびMuSKを、それぞれ大きさの異なる金コロイド粒子で標識し、ポストシナプスに特徴的に形成されるnAChR分子クラスターを筋管細胞で形成させる。培養筋管細胞を用いた場合、クラスターの形成と崩壊のタイミングは、クラスターごとに異なるため、raspynに融合して発現させたGFPを利用して光学顕微鏡でタイムラプス観察を行い、個々のクラスターが形成のどのような段階にあるか、または崩壊中であるかを判断する。その後、細胞を固定し、それぞれの段階にあるクラスターの位置を電子顕微鏡で同定(相関観察)して、クラスター部位におけるnAChRや、クラスター形成に深く関与していることが知られているMuSKの細胞表面および細胞内小胞中の分子局在を調べる。クラスター形成には、細胞表面にある分子の移動だけでなく、細胞内小胞を介した膜トラフィックが重要であると考えられている。細胞表面の分子局在については走査型電子顕微鏡、膜トラフィックについては透過型電子顕微鏡を用いて解析を行う。また、rapsynについては、3MTタグ融合rapsynを定常的に発現する筋管細胞を用いて、細胞表面のnAChRを蛍光標識した上で、nAChR分子クラスターを形成させて、光学顕微鏡と電子顕微鏡を用いた相関観察を行い、rapsynの分子局在を解析する。さらに、ES細胞から作製したNMJの培養シナプスモデルについても相関観察を行い、NMJに特徴的な微細構造の分化に伴う形成過程を解析する。 これらの結果から、NMJのひだ構造や、AChR分子クラスター、NMJの情報伝達システムの構築に、「どの分子が」、「いつ」、「どこで」、「どのように関わっているのか」を解析し、それらの分子メカニズムを明らかにする。
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