本研究はエゾシカの増加がヒグマの生態に与える正および負の影響を明らかにすることを目的とした。知床半島においてシカ・ヒグマの生息密度が異なる地域(知床岬:両種とも中密度、ルシャ地区:両種とも高密度)を対象として、ヒグマの糞・体毛を回収し、糞分析、DNAバーコーディング法、体毛の安定同位体比解析を用いてヒグマの食性の違いを調べた。この結果、エゾシカが高密度で生息するルシャ地区では、6月のエゾシカの出産期において新生子を高頻度で捕食することができる一方で、ヒグマが本来好む草本を採食する機会は少なく、代替として木本類の若葉を利用するなど、採食生態を変化させることで適応していることが示唆された。
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