研究課題/領域番号 |
19K06934
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
中島 敏 富山大学, 学術研究部医学系, 准教授 (00455792)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 姿勢調節 / 到達運動 / 随意運動 / 高次運動野 |
研究実績の概要 |
ヒトや四足動物は肢による到達運動に先立ち,標的の位置や用いる肢に合わせて異なった予期的姿勢調節(APA)をすることが知られている.標的が見えない場合でも動物が自身の行動履歴に基づいて標的の出現場所を予測し,この予測がAPAに反映されることを検証するため,3試行(1ブロック)ごとに標的の位置が交代する遅延到達運動課題を2頭のネコに課し,毎試行で標的が現れる前のネコの重心の位置の水平成分(CVP)を測定した.ブロックのうち最初の1試行をSWITCH試行,後の2試行を夫々STAY1, STAY2試行と定義した.各試行において標的提示前の遅延期間のCVPを解析した結果,どちらのネコにおいてもSTAY1とSTAY2試行におけるCVPの動きはほぼ一致し,前の試行での標的位置に応じた姿勢調節を行っていることが示唆された.続くSWITCH試行においては,一方のネコ(A)のCVPは直前のSTAY試行よりも直後のSTAY試行に近い動きを示したので,Aは標的位置の変化を予測しそれに基づいた姿勢調節の戦略をとっていることが示された.もう一頭のネコ(M)から記録したデータからは,Mは変化を予測した戦略をとっていないことが示された.これらの結果はネコが異なった行動戦略に基づいて予測した標的出現位置がAPAに反映されることを示唆する. 上記とは別に本計画で研究対象としているネコの高次運動野の一つである4δ野の機能についての研究をMontreal大学のTrevor Drew教授らの研究グループと共同で行った.申請者は主として細胞活動の解析を行い,カナダ側では他の脳領域から4δ野へ投射する神経細胞の分布を定量するための組織学的実験を行った.その結果4δ野には複数の肢の協調運動に関与すると考えられる細胞活動が見出され,同じく肢の協調に関わると考えられる頭頂葉領域や一次運動野と密な結合を持つことを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画で行う予定であったネコの重心位置の解析は順調に進んだが,ネコを用いた侵襲的脳活動記録(旭川医科大学で行う予定であった)を国内における移動制限のために実施することができなかった.代替としてニホンザルに到達運動課題を行わせられるような実験系の構築を富山大学で開始したが,これにも相当の時間を要している.
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今後の研究の推進方策 |
ネコを用いた実験系に関し,(1)申請者が既に旭川医科大学で行った実験については学会で発表済みであり,本年度中に論文として発表することを目標とする.(2)旭川医科大学及びMontreal大学と国際共同研究体制を既に構築しており,ネコの大脳皮質高次運動野を構成する複数の皮質領域についての研究を継続する.領域のうち4-delta, 4sfu野の細胞活動の特性および4-delta野の神経結合については2021年度中に査読付き論文で成果を発表できる見込みである.また6a-alpha, 6a-gamma野についても解析を開始している. また,サルを用いた実験系の構築を富山大学にて継続する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は国内及び国外への移動制限のために,旭川医科大学及び日本神経科学大会への出張旅費として計上していた額を使用しなかった.残額はサルを用いた実験系の構築,(移動制限が解除された場合の)学会出張旅費,論文の英文校正費用,論文出版費に充当する.
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