ヒトや四足動物でみられる予期的姿勢調節(APA)は明らかな四肢の運動の前に起こる姿勢変化であり,次の行動を見越してどのようなAPAが行なわれるかは,学習を通して獲得された予測戦略に左右されると考えられる.予測戦略がどのようにAPAに影響するかを調べるため,3試行(1ブロック)ごとに標的の位置が左から右,あるいは右から左に交代する遅延到達運動課題を2頭のネコに課し,毎試行で標的が現れる前のネコの重心の位置の水平成分(CVP)を測定した.ブロックのうち最初の1試行をSWITCH試行,後の2試行をSTAY試行と定義した.解析の結果,どちらのネコにおいてもSTAY試行におけるCVPの動きは標的が右に出ようとしているか左に出ようとしているかで有意に異なり,ネコは標的位置の予測に基づいた姿勢調節をしていることが示唆された.続くSWITCH試行においては,両方のネコのCVPは直前のSTAY試行よりも直後のSTAY試行に近い動きを示したため,ネコは学習の結果として標的位置の変化をも予測し,それに基づいた姿勢調節の戦略をとっていると考えられた.上記の内容を2023年度末に神経科学の専門誌に投稿し査読を受け,2024年5月現在改訂中である.
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