研究課題/領域番号 |
19K07091
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研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
東 伸昭 星薬科大学, 薬学部, 教授 (40302616)
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研究分担者 |
小宮根 真弓 自治医科大学, 医学部, 教授 (00282632)
東 恭平 東京理科大学, 薬学部薬学科, 講師 (10463829)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヘパラナーゼ / ヘパラン硫酸 / 酵素阻害物質 / ヒアルロン酸 / 細胞外マトリックス / フラグメント分子軌道法 / 角質細胞層 / アトピー性皮膚炎 |
研究実績の概要 |
皮膚炎症の場でステロイド系抗炎症薬とは別に炎症の調節に関わる内在性分子として、本研究課題では硫酸化糖鎖の作用に着目している。炎症を抑制する硫酸化糖鎖を検索するとともに、硫酸化糖鎖の分解を通してその機能を制御する酵素ヘパラナーゼの炎症への関与を解析している。さらにヘパラナーゼの活性阻害により炎症疾患の調節が可能であるか試みている。 前年度に引き続き2021年度も、研究申請書の[課題1]に示す、ヘパラナーゼの酵素活性を阻害することにより抗炎症効果を示す糖鎖の探索を行った。前年度に見出した硫酸化ヒアルロン酸については、硫酸化の頻度が、糖鎖の抗炎症性に大きく関与することが推測されていた。2021年度は、この硫酸化ヒアルロン酸がヒト、マウスの様々な細胞、組織から得たヘパラナーゼの酵素活性を抑制すること、この抑制作用は酵素活性の阻害のみならず、上皮性細胞が示す浸潤やケモカイン産生誘導能に対しても有効であることがわかった。フラグメント分子軌道法による解析の結果、ヘパリンよりも強い阻害作用を示す構造的根拠として、硫酸化ヒアルロン酸が硫酸基のクラスターを介して、ヘパラナーゼのヘパリン結合ドメイン1と強く相互作用することがわかった。一方、硫酸化ヒアルロン酸の抗炎症作用が低分子量の状態でも成り立つのかどうかについては、検討しなければならない事項であるが、結論するには至らなかった。 アトピー性皮膚炎などの炎症部位で産生されるヘパラナーゼは、細胞外マトリックスの破壊、炎症性サイトカインの産生促進などを促すと考えられる。組織学的検討により、皮疹部において表皮の角質細胞層に、特に基底層などにへパラナーゼの強い発現が認められた。アトピー性皮膚炎では、表皮直下の基底膜構造が明確に認められない傾向があるが、基底層におけるへパラナーゼの発現が、この基底膜の変化に関与する可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究申請書時点の具体的な課題として、[課題1] 硫酸化糖鎖断片混合物から起炎症・抗炎症活性をもつ糖鎖を同定する、 [課題2] アレルギー性皮膚炎症疾患の発症におけるヘパラナーゼの関与を検証する、の2つの目標を掲げた。このうち課題1のヘパラナーゼ阻害物質の探索については、硫酸化ヒアルロン酸の作用機序を分子論的に説明するに至ったことから一定の成果をあげることができたと考える。また、ヘパラナーゼや起炎症活性を有する糖鎖の細胞刺激を評価する系としてNF-kappaB活性化状態の定量化が有用であることを示し、これを活用することができた。一方、アレルギー性皮膚炎症疾患の発症におけるヘパラナーゼの関与の検証については、コロナ禍の影響から、ヘパラナーゼ阻害物質を動物実験で検証する担当者の育成ができず、引き続き遅滞が生じている。ヒト臨床サンプルの解析は、組織染色に供することができるサンプル数に限りがある。成果は上がりつつあるが、十分とはいえない。
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今後の研究の推進方策 |
課題1・課題2を通じ、強い抑制活性を示すヘパラナーゼ阻害物質を精選、最適化することが研究遂行上の一つのポイントになる。硫酸化ヒアルロン酸の阻害物質としての効果を最適化するため、疎水性の付与、低分子化などの最適化を検討する。また細胞外マトリックス内など、細胞が実際に居住する微小環境において、阻害剤依存的なヘパラン硫酸切断活性の抑制が可能であるのか引き続き検討する。ヘパラナーゼの生物活性を抑制するための別の方法として、ヘパラナーゼと免疫グロブリンの融合タンパク質などのように、炎症性細胞など特定の細胞へのターゲティングが可能なヘパラナーゼ阻害物質の創生を試みており、引き続き検討してゆく。 課題2については、ヒト臨床サンプルにおけるヘパラナーゼの発現解析を蓄積中であるが、さらに症例を増やすことにより、疾患部位におけるヘパラナーゼの発現パターンを確定させてゆく。病態形成におけるヘパラナーゼの役割の検討として、ヒト臨床サンプルにおいてヘパラナーゼの発現が認められる角質細胞や浸潤性免疫細胞が病態に影響を与える場面を想定し、主にin vitro検討を重点的に評価できるように研究を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度までの配分額に対し、733,936円の未使用額が生じた。2021年度はヘパラナーゼの酵素活性阻害剤の調製と評価、炎症性シグナルの解析を進める上で必要となる試薬類に消耗品を購入した。また、ヒト臨床サンプルの解析に向けた組織染色関連の試薬を購入した。しかしながら、コロナ禍で研究が寸断される中、継続的な検討ができず次年度使用額を生じた。残り期間でできるだけ当初目標を達成すべく、細胞レベルの炎症抑制評価系、ヒト臨床サンプルの免疫組織学的解析、また可能であれば動物実験モデルによる評価に必要な消耗品類を購入するため、予算を充当したいと考えている。
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