血管成熟は、内皮細胞からなる脆弱な微小血管が、血管平滑筋などの壁細胞に被覆され、構造的に安定化すると共に、血管拡張することにより機能的な血管を構築する過程である。組織の創傷治癒や、虚血により血管網の再形成が誘導されるが、多くの場合、障害部位の血流が障害前のレベルにまで回復することはない。本研究では、この血流レベルの回復にどのような因子が関与しているかを明らかにし、その制御を通して、機能的な血管網の再形成を促進する手法の開発を目指した。本研究では、血管平滑筋に多く発現する非選択的カチオンチャネルTRPC6が虚血刺激により発現が上昇し、その活性の亢進が血流回復を負に制御することを見出した。さらに、このTRPC6の活性亢進に対して、負に制御する内因性因子として、一酸化窒素およびプロスタグランジンI2 (PGI2)を同定した。またTRPC6を阻害する効果を有する薬物スクリーニングにより発見された1-ベンジルピぺリジン (1-BP)が、血流回復を亢進する作用を有することを明らかにした。興味深いことにTRPC6の阻害は、血管平滑筋による内皮細胞の保護効果として、障害組織において認められたendothelial NO synthase (eNOS)やPGI2合成酵素の発現低下を防止する効果を示した。すなわち、障害からの血管網の再建において、TRPC6の阻害は、血管平滑筋と内皮細胞の相互的な互恵関係を促進することが明らかにされた。そこで、内皮障害を伴う高脂血症モデル(LDLr-KOおよびApoE-KOマウスを使用)にTRPC6阻害薬を適用したところ、通常ほとんど回復しない組織虚血後の血流が、著しく改善されることが明らかになった。本研究結果は、血管成熟の亢進を標的とした新たな血流改善手法として、TRPC6の阻害が非常に有用であることを強く示唆した。
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