研究課題/領域番号 |
19K07337
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
岸本 泰司 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (90441592)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プラセボ反応 / 内在性カンナビノイド / ドパミン受容体 / マウスモデル |
研究実績の概要 |
今年度はまず、モデルマウスにおけるプラセボ反応条件づけを確立するために、鎮痛効果や抗うつ効果を実際にもつ薬品(モルヒネや抗うつ薬)の投与を無条件刺激(US)とし、「文脈」あるいは「条件刺激」によって、マウスに対して人間と同様なプラセボ反応(鎮痛効果あるいは抗うつ効果)を起こしうる最適な実験系を検討した。文脈効果としてはある特定のチャンバー環境を、条件付け刺激としては生理食塩水の腹腔内注射を用いた。この結果、それぞれの刺激単独では、再現性のあるプラセボ反応を惹起することが難しく、文脈と条件刺激の両方を使用することで有意なプラセボ反応をマウスで惹起することが明らかとなった。 次に、この系を用いて、各種神経伝達物質の阻害薬/作動薬及び、分解酵素阻害薬の効果を見ることで、プラセボ反応のシナプス分子基盤の解明を目指した。プラセボ反応は、Amisulpride (20 mg/kg)の投与で有意に減少し、Rimonabant (3 mg/kg)では減少する傾向にあった。これらのことから、プラセボ反応の成立においてはドパミン受容体D2, D3および内在性カンナビノイド受容体CB1の重要性が示唆された。そこで、ドパミン受容体作動薬Pramipexole (4 mg/kg)の投与によるプラセボ反応の増強を期待したが、この効果は観察されなかった。また、内在性カンナビノイド受容体CB1の役割をさらに確かめるために、FAAH(anandamide分解酵素)阻害薬URB597およびMGL(2-AG分解酵素)阻害薬URB602でのプラセボ反応に対する増強効果を確認したが、これにもプラセボ効果に有意な影響をおよぼさなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験者に依らず、安定的にかつ再現性よくプラセボ反応を起こしうる条件検討に時間がかかり、その結果また「文脈」あるいは「条件刺激」単独ではマウスにプラセボ反応を起こすことができなかった。この結果より「文脈」「条件付け」「期待」のカスケードを説く統合フレームワーク理論の生物学的検証が一部困難になった。その代わりに、20年度に主に行なう予定であった薬理学的検討を、受容体拮抗薬だけではなく分解酵素阻害薬も併用して当初の予定より詳細に調べることを開始できている。
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今後の研究の推進方策 |
19年度に確立した方法論に、様々な脳部位(前頭前皮質、前帯状皮質、海馬など)に対する損傷、あるいは皮質脳波(Electro-Cortico-Grpahy: ECoG)などの手法を組み合わせることで、プラセボ反応に重要な脳領域を明らかにする。具体的には、プラセボ反応の減弱が起こる脳の破壊領域を同定し、あるいは、プラセボ反応が起こっている際に活動が上昇する脳領域を皮質脳波で同定することにより反応に重要な脳部位を同定する。さらに、19年度に既に開始しているが、ドパミン、オピオイド、内在性カンナビノイドの特異的分解酵素阻害薬あるいはKOマウス等を用いて、プラセボ反応への影響を調べ、プラセボ反応に重要な神経伝達物質をより一層明らかにしていく。また各種KOマウスを用いて、海馬の可塑性(LTP)との関連についても明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた測定機器の一部の輸入が遅れ年度を越したため。またCOVID-19関連による学会開催中止により、参加費、旅費が不要になった。
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