動物モデルを使用した行動学的手法は、脳の高次機能、特に記憶学習の分子的機構の解明に大きく貢献した。しかし、同じく一種の学習でもあるプラセボ反応に関しては動物実験の研究例は限られている。申請者はマウスに対し2種類のプラセボ条件づけを用いて、マウスに①疼痛や②うつ症状を引き起こす状況下、特定の文脈(条件刺激)と治療薬(無条件刺激)を組み合わせることで、CSのみでマウスに鎮痛反応や抗うつ反応を生じさせるかを確認した。さらにこの反応が起きている最中の脳表面のECog電極による脳活動の解析を試みている。①生理食塩水が投与されたマウスは、モルヒネを投与されていないにも関わらず、有意に潜時が延長する傾向がみられた。しかしながら、個体間の行動のばらつきが大きく、さらには実験者の違いによる実験結果の違いも避けがたく、本来の趣旨とは異なるものの「実験者効果の評価系」としての活用に検討の余地がある。なお、齧歯類においても痛みの客観的指標として近年注目を浴びている顔の表情に対する定量的測定法を取得済みの動画に適応し、再解析を遂行中である。② 青色光下、約5gのチョコレートを含むオープンフィールドをCSコンテクストとし、ケタミンをUSとしたプラセボ抗うつ効果を、尾部懸垂試験で評価した。測定時間は10分間とし、このうち6分間に認められる無動行動の時間を抑うつ行動として評価した。無動行動はCleversys社のFreezeScanを利用し、いくつかの閾値を検討した上で最適化した条件で定量的に評価を行なった。この結果条件づけ直後では、対象群との間でその無動時間に違いは見られなかったが、24時間後の試験ではプラセボ条件づけ群で有意に無動時間の減少が見られた。これは短期記憶と長期記憶の観点から、プラセボ反応の脳内メカニズムを明らかにする上で重要な知見であることが示唆された。
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