研究実績の概要 |
22q11.2欠失症候群(22q11.2DS)患者は統合失調症や知的能力障害、自閉スペクトラム症、てんかん、パーキンソン病といった様々な精神神経疾患に対して生涯にわたって非常に高い発症リスクを有する。そのため、22q11.2DS患者の脳病態は喫緊の課題となっている。この課題に取り組むため本研究では、22q11.2DS患者iPS細胞から誘導した神経系細胞、特に22q11.2DSの脳病態への関与が示唆されるものの、これまでほとんど着目されてこなかったドパミン神経細胞での解析を進めている。 これまでに、iPS細胞から二次元培養で誘導したドパミン神経細胞を対象とした解析を実施し、健常者由来に比べ22q11.2欠失患者iPS細胞由来ドパミン神経細胞では小胞体ストレスへの脆弱性や細胞骨格異常が認められることを明らかにし、そしてその表現型をもたらす分子基盤のひとつとして、小胞体ストレスセンサーとして知られているキナーゼタンパク質PERKの発現低下およびその下流シグナルの活性低下を同定した(Arioka et al., EBioMedicine 63:103138, 2021)。令和4年度では、より生体脳に近い環境での解析を目指し、中脳オルガノイドでの解析に着手した。中脳オルガノイドにおいても、これまで実施してきた2次元培養のドパミン神経細胞での知見と同様に、健常者に比べ22q11.2欠失患者ではPERKの発現低下が認められた。ただし、中脳オルガノイドでの長期の培養(2カ月以上)に苦戦しており、今後の課題として残された。
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