全身性強皮症(以下SSc)は皮膚や内臓の線維化をきたす自己免疫性疾患であり、レイノー症状などの血管障害も認める。すなわち、免疫異常に加えて線維化と血管障害が複雑に絡み合って症状を来すが、これらの関係は未だ良くわかっていない。また、線維化の機序は解明されつつあるが、血管障害の機序はほとんど明らかになっていない。これは、患者の血管内皮細胞を使った適切な病変解析モデルが存在しないためである。そこで、本研究ではSSc患者のiPS細胞から多様化能力を持った血管内皮細胞を誘導し、その血管内皮細胞を用いて管腔形成を行い、試験管内での血管病変モデルを作製することとした。管腔形成を行うことによって試験管内実験ではあるが、単層培養した血管内皮細胞の解析とは違い、より生体内に近い病態の解析ができる。 我々は、健常人(2名)とSSc患者(2名)のiPS細胞からそれぞれ血管内皮細胞の誘導を行った。健常人iPS細胞由来の血管内皮細胞は2名とも問題なく増殖し、さらに管腔形成実験でも問題なかった。一方、SSc患者iPS細胞由来の血管内皮細胞は、2名ともiPS細胞からの誘導は問題なかったが、誘導後の増殖能は極めて低く、健常人と比較して明らかに管腔形成能は劣っていた。 SSc患者iPS細胞由来の血管内皮細胞の増殖能及び管腔形成能が健常人と比較して劣っている原因因子を探索するため、健常人及びSSc患者iPS細胞由来の血管内皮細胞から抽出したRNAを用いて網羅的マイクロアレイ解析を行った。Z-score値から健常人と患者の4通りの組み合わせから、SSc群において有意な発現変動があると予想された遺伝子のうち、上位及び下位20遺伝子を抽出した。4通りで共通した遺伝子は18遺伝子であった。次にこれら18遺伝子の実際の発現をリアルタイムPCRにて確認し、実際、15個の遺伝子にて健常人とSSc患者の間に有意差を認めた。
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