研究課題
本研究では、亜鉛トランスポーターZIP13を介した亜鉛シグナル(ZIP13-亜鉛シグナル)の脂肪細胞における役割を明らかにすることにより、肥満や糖尿病の理解に貢献することを目標とした。本研究は当初ベージュ化に注目して研究を進めたが、予想外の発見として、成熟脂肪細胞でZIP13がFth1を介してlipolysis制御を行い、肥満病態を制御するというZIP13の新規の機構を見出した。そこで本年度は、ZIP13-Fth1 axisがどのようにlipolysisを制御するかを、ZIP13の輸送基質の観点から明らかにすることを目指した。哺乳類ZIP13の輸送基質を同定するために、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた輸送実験を行なったところ、哺乳類ZIP13は亜鉛のみならず鉄イオンの輸送能を有することを見出した。そこで脂肪細胞の分化誘導系で亜鉛・鉄イオン変化が細胞分化のどの時期で生じるのかをそれぞれの金属イオン蛍光プローブを用いて検証したところ、哺乳類ZIP13は前駆脂肪細胞では亜鉛イオンのみ輸送するが、成熟脂肪細胞では亜鉛と鉄イオン両方を輸送することが判明し、ZIP13の金属輸送能はlipolysisの抑制に必須であることを見出した。lipolysis経路はPKAシグナル経路により制御されているため、今後、この経路のどこに影響を与えているか各種阻害剤を用いて検討する。亜鉛シグナルZIP13-Fth1 axisはlipolysisを制御し、この機構は脂肪細胞以外の細胞では寄与が少ないことから、これらの知見は亜鉛シグナルの特異性を生み出す機構の解明に迫るものである。本研究の解明により、ZIP13による亜鉛シグナルを特定の細胞でコントロールし、肥満を選択的に改善する治療の確立に繋がる可能性が期待できる。
2: おおむね順調に進展している
全身でZip13を欠損したマウスで観察されたベージュ化亢進の表現系がどの細胞依存的に起きているかを調べるために、成熟脂肪細胞特異的にZip13を欠損したマウス(Adipo-Zip13欠損マウス)を作製し解析を行った。Adipo-Zip13欠損マウスは、高脂肪食負荷時の肥満に抵抗性を示すが、ベージュ化亢進を示す所見は観察できなかった。一方、このマウスではlipolysisが亢進することにより、脂質をより優先的に消費して肥満に抵抗性を示すことを見出した。さらにAdipo-Zip13欠損マウスの脂肪組織ではZIP13結合タンパク質である、鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンの構成因子の1つであるFth1が増加しており、この発現を抑制することによりlipolysisは抑制されたことから、「ZIP13-Fth1 axis」がlipolysis制御に関与することが示唆された。本年度は、ZIP13-Fth1 axisがどのようにlipolysisを制御するかを、ZIP13の輸送基質の観点から明らかにすることを目指した。申請者はこれまでにZIP13とFth1が相互作用すること、また、ハエのZIP13ホモログは鉄イオンを輸送することが報告されているため、哺乳類ZIP13が鉄イオンを輸送することにより、lipolysisを制御する可能性を考えた。そこで、哺乳類ZIP13の輸送基質を同定するために、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた輸送実験を行なったところ、亜鉛のみならず鉄イオンの輸送能を有することを見出した。そこで脂肪細胞の分化誘導系で亜鉛・鉄イオン変化が細胞分化のどの時期で生じるのかをそれぞれの金属イオン蛍光プローブを用いて検証したところ、哺乳類ZIP13は前駆脂肪細胞では亜鉛イオンのみ輸送するが、成熟脂肪細胞では亜鉛と鉄イオン両方を輸送することが判明した。
我々はこれまでに成熟脂肪細胞特異的にFth1を欠損したマウス(Adipo-Fth1欠損マウス)では、lipolysisが抑制され、体重が増加することを観察している。また細胞レベルにおいてもAdipo-Fth1欠損細胞でlipolysisが抑制されることから、ZIP13-Fth1 axisがlipolysis経路を制御すると考えている。今後の研究方針として、(1) ZIP13-Fth1 axisによるlipolysis制御の解明と(2) ヒト患者由来iPS細胞を用いた検討を行う。(1) ZIP13-Fth1 axisによるlipolysis制御の解明lipolysis経路はPKAシグナル経路により制御されているため、今後ZIP13-Fth1 axisがこの経路のどこに影響を与えているか各種阻害剤を用いて検討する。また、亜鉛や鉄イオンとそのキレート剤を用いて、ZIP13-Fth1 axis がPKAシグナル経路のどの分子に影響を与えるかを明らかにする。最終的には影響が見られた分子の活性や構造が亜鉛や鉄イオンによってどのように変化するか解明する。(2) ヒト患者由来iPS細胞を用いた検討マウスでの表現系がヒトでも観察されるか検討する。ZIP13に変異を持つ患者由来の繊維芽細胞からiPS細胞を樹立し、脂肪細胞への分化誘導を行い、lipolysisやZIP13-Fth1 axis経路に変化があるか調べる。Zip13の機能喪失変異を有する患者由来のiPS細胞とそこから由来する間葉系幹細胞は既に共同研究者である徳島文理大学の深田教授により樹立されている。そこで、患者由来の間葉系幹細胞を使用させていただき、脂肪細胞への分化誘導を行い、lipolysisの機能評価を行う。それにより脂肪細胞におけるZIP13の役割がヒトにおいても保存されているのかが明らかになる。
端数が合わなかったため、次年度の繰越とした。
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