マウスで加齢に伴い腸管のSIRT1活性低下、p53-p21経路およびp16-Rb経路の活性化(Cellular Senescence(細胞老化))を認めることから、これらが腸管上皮の老化を規定する重要な因子であると考え、加齢による内分泌機能変化とその制御機構の解明、腸管上皮の細胞老化による血糖、肥満制御機構の解明を通じて、腸管上皮の高齢者耐糖能障害への関わりの全貌を明らかにしていく。 高脂肪食負荷の条件での腸管SIRT1の阻害が、腸管上皮幹細胞におけるNeurogenin3の発現上昇を通じて腸管内分泌細胞への分化を促進し、その結果GLP-1分泌の増加をきたすことを、これまでマウスの実験で示してきた。本年度は、さらに、腸管上皮オルガノイド培養系を確立して、SIRT1の阻害により腸管内分泌細胞の分化が誘導されることを示した。また、このオルガノイド培養系で、CyclinBやCyclinEを阻害することにより、SIRT1阻害による内分泌細胞増加の効果が完全に消失することがわかった。また、細胞老化に関わるp53を腸管内分泌細胞で欠失させた場合にも、同様に腸管内分泌細胞数およびGLP-1分泌の増加を認めることがマウスおよびオルガノイド培養での実験で確かめられた。以上から、腸管内分泌細胞での細胞周期の制御が腸管内分泌細胞の数の変化に重要な役割を持つことが示唆される。今後、さらに、βカテニンシグナルなどに着目して、SIRT1阻害が腸管内分泌細胞の細胞周期を進行させるメカニズムを解明する。 また、腸管上皮特異的p53ノックアウトマウス、腸管上皮特異的Rbノックアウトマウスを樹立した。タモキシフェンによる急性ノックダウンのモデルで、通常食負荷時においてもp53やRbの欠失が糖代謝を改善させることを見出した。 今後、これらの結果に基づき、高齢者糖尿病の病態と腸管上皮との関わりの解明へと発展させていく。
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