研究課題
遺伝子改変T細胞輸注療法は、がん抗原に特異的な受容体遺伝子を導入した腫瘍特異的T細胞を体外で増殖させ、患者に輸注することでがんを特異的に攻撃する治療法であるが、疾患や患者により有効性が不十分であり、輸注するT細胞の分化、メモリー形成能、エフェクター機能が治療成績へ大きな影響を与えることが明らかになりつつある。本研究では、T細胞の機能・分化・増殖に関連する因子であるとされるIRFファミリーの発現を人為的に調節して有効性が高い腫瘍特異的T細胞を作製し、我々が開発をすすめる非自己T細胞利用を可能とするステルスT細胞技術(内在性TCRの発現をsiRNAで抑制することにより組織障害を防ぎβ2マイクログロブリン(B2M)をゲノム編集で消去し、TCR/MHCを持たず、宿主に排除されない)と組み合わせ、多くのがん患者に適用可能な抗腫瘍T細胞輸注療法を開発を目指す。2019年度には、以下の研究実績が達成された。1.各種刺激によるT細胞の分化・増殖時のIRFファミリーの発現を解析し、特に変化の大きかったIRF4の発現をコントロールできるレトロウイルスベクターを作製した。2.NK細胞の抑制性受容体のリガンドであるHLA-E分子を強制発現するために、HLA-E遺伝子とB2M遺伝子をリンカー配列で連結し、レトロウイルスベクターに組み込み融合分子として発現する系を構築した。ヒト末梢血由来リンパ球(PBMC)にこのレトロウイルスを感染させることにより30%程度の細胞の細胞表面にHLA-E分子を発現させることに成功した。3.Jurkat細胞およびPBMCに2.のレトロウイルスおよびB2Mノックアウト用のレンチウイルスを感染させMHC±、HLA-E±の細胞株を作製するとともに、PBMCより効率的にNK細胞を増殖させ、拒絶反応におけるNK細胞とHLA-Eの相関をin vitroで検討できる系を確立した。
2: おおむね順調に進展している
T細胞の分化・増殖に関わるIRF4の発現をコントロールできるレトロウイルスベクターを作製し、さらに、Jurkat細胞およびPBMCでMHC±、HLA-E±の細胞株を作製、NK細胞とHLA-Eの相関をin vitroで検討できる系の構築に成功した。これらのことから、次年度以降のステルスT細胞を用いたT細胞輸注療法の開発のために必要な、細胞のエフェクター機能やその他の性質、及び各種腫瘍に対する治療効果の評価のための準備は整ったと考える。以上の進捗状況より、おおむね順調に進展していると自己評価している。
1.IRF4を中心としたIRFファミリーの発現が細胞のエフェクター機能やその他の性質、及び各種腫瘍に対する治療効果にどのように関与するかを細胞表面マーカーやマウスを用いたin vitro、in vivoの系で評価する。2.HLA-E分子を細胞表面に発現させることに成功しているので、HLA-E分子を細胞表面に発現する細胞がNK細胞からの攻撃を回避することをin vitro、in vivo双方の系で検証してゆく予定である。さらに、上記を組み合わせることにより、さらに有効性が高く、多くのがん患者に適用可能な抗腫瘍T細胞輸注療法を開発することを目指す。
計画的に使用したが、(1)コロナウイルスの影響により1月下旬より一部予定どおりに使用できなかった。(2)進捗状況から、マウス、細胞培養に必要な経費に比べ生化学的実験に必要な経費が占める割合が多くなった。(3)試薬等の割引が得られた。という3点の理由より次年度使用額が生じた。次年度使用(予定)額は、マウス、細胞培養の経費に充てる予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Cancer Immunol Immunother
巻: 69 ページ: 663-675
10.1007/s00262-020-02483-1