研究課題/領域番号 |
19K10272
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
桐田 忠昭 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70201465)
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研究分担者 |
仲川 洋介 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (00714875)
森 英一朗 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70803659)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNA損傷 / DNA修復タンパク / ATR経路阻害 / がん増感 |
研究実績の概要 |
DNAに損傷が生じた時には、タンパク質リン酸化酵素ファミリーがDNA損傷センサーの役割を果たし、細胞はその損傷を修復しようとするとともに、細胞周期の一時停止、あるいは自発的な細胞死などの生体防御反応を引き起こすことが知られている。哺乳動物細胞において、特にDNA二重鎖切断の認識に関わるATM、DNA-PKと1本鎖DNAの認識に関わるATRが重要であると考えられている。本研究では、これらのDNA修復関連タンパク質が、既存の抗がん薬や放射線照射および温熱処理などの効果を増大させる分子標的となり得るのか否かの検討をすることを目的としている。まず、阻害剤の濃度決定のため、濃度を振り分けたATR阻害剤の単剤処理を行い、細胞生存率をコロニー形成法にて算出した。阻害剤単独でIC50を超えない濃度として、本研究では各種阻害剤を3μMで用いることとした。次にp53の異なる口腔扁平上皮癌細胞株、SAS細胞(wt-p53)およびHSC3細胞(mt- p53)に対し、5-FU処理(10μM)とATR、ATM、DNA-PKの阻害剤(3μM)を加え、細胞生存率をコロニー形成法にて算出した。SA細胞およびHSC3細胞ともに、5-FU処理ではATR阻害剤の併用により著明な増感効果を認めた。同様に、X線照射(2Gy)、温熱処理(44°C、10min)時に阻害剤(3μM)をそれぞれ加えて増感効果を検討した。X線照射ではDNA-PK阻害剤との併用、温熱処理ではATR阻害剤との併用により高い増感効果を認めた。さらに、5-FUとATR阻害剤の併用によるApoptosis誘導の増加をFlow cytometryを用いた細胞周期のヒストグラムおよびHoechst染色での形態学的変化から検討を行ったところ、5-FU 単剤に比べApoptosis誘導を著明に増加させる結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点までに、申請書作成時に多くの文献を参考にして予測していた通り、DNA修復関連タンパク質の機能を阻害剤により低下させることで、既存の抗がん薬(5-FU)や放射線照射および温熱処理による殺細胞効果を著明に高める結果を得ている。このことにより、DNA修復関連タンパク質およびそれらが関連する経路が、既存のがん治療を効果的に行う上で有効な分子標的機構になると考えられ、申請書通りに今後研究を進めていくことにより将来の臨床応用へとつながることが期待できるため。
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今後の研究の推進方策 |
放射線治療(照射)や抗がん薬治療(処理)に抵抗性を持つと言われているがん幹細胞に対して、DNA修復酵素の阻害剤を併用した際に細胞死の誘導および細胞増殖抑制にどの程度高い効果が認められるかに関して解析を進めていきたいと考えている。 また、放射線照射や抗がん薬の処理を行った後に、免疫沈澱法や蛍光抗体法により、標的となるDNA修復酵素の細胞内局在の経時的な変化を検討していきたいと考える。局在の変化が生じるのであれば、細胞内核外輸送タンパク阻害剤等を用いて標的となるDNA修復酵素の細胞内局在に変化をもたらすことで増感の有無を検討を行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末である2020年2月および3月に参加予定していた学会が、新型コロナウイルスの感染拡大により急遽中止となったため、未使用金額が生じた。次年度は、タンパク発現を調べるための抗体などに多くの費用が生じると考えられるため、今回生じた未使用金額を有効活用したいと考えている。
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