研究課題
PIKKファミリーを中心に、DNA修復機構ががん治療を行う上での分子標的となりうるか否かの検討を進めている。これまでの研究で、p53の発現ステータスに関わらず、5-FUおよび温熱処理に対してはATR阻害剤が、X線照射に対してはDNA-PK阻害剤が、効率的なアポトーシスを誘導し殺細胞効果に著明な増感を示す結果となった。そこで2020年度は、先ずは5-FU処理後のATRの細胞内でのタンパク発現の変化についての検討をすることとし、ウエスタンブロッティングを行った。5-FUの濃度依存性にATRの自己リン酸化が強く進むことが分かった。一方、ATMのリン酸化も認められるが、ATRのような濃度依存性は認めなかった。DNA-PKcsのリン酸化については、ATRやATMほどの変化はみられない結果となった。また、DNA損傷時にリン酸化したATRからシグナルを受け取り、細胞周期の停止に関わるChk1キナーゼについてもタンパク発現の検討を行った。ATRと同様に、5-FUの濃度依存性に発現が増加する傾向が認められた。さらに、それらのATRやChk1のリン酸化は、ATR阻害剤を加えることにより抑制されることを確認した。次に、細胞内の分子の局在についての評価を行った。DNA二本鎖切断が起こった部位の局在マーカーとなるγH2AX抗体を用いて免疫染色を行った。5-FU処理を24時間行った結果、核内にγH2AXが25フォーカス以上みられる細胞が、コントロールと比較し90倍増加した。さらに、5-FU処理にATR阻害剤を組み合わせると、γH2AXが25フォーカス以上みられる細胞が150倍増加し、pan-nuclear細胞も認められた。これらのことにより、ATR阻害は5-FUによるDNA二本鎖切断を増加させ、効率的なアポトーシスを誘導し増感効果をもたらすと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
実験結果から、5-FU処理後の細胞内でのDNA修復応答は、PIKKファミリーのATRキナーゼを中心とした修復経路に活性が起こっていることが考えられた。さらに、γH2AX抗体を用いた免疫染色により、DNA損傷は5-FU単剤よりもATR阻害剤を加えることによって著明に増加することが分かった。これらのことから、ATRキナーゼは、5-FUにおける重要な分子標的であることが明らかとなった。この研究を進めていくことにより、将来的により効果的ながん治療へとつながる可能性があると考える。
DNA損傷部位のマーカーであるγH2AX抗体にリン酸化ATR抗体を組み合わせ、その共局在について免疫染色にて評価することにより、実際に損傷部位に対してATRがどのような位置関係をとるか検討する。さらにタイムラプスで経時的な、Zスタックにより立体的な観察をすることで、ATRの分子動態の詳細な観察が可能となると考える。また、それらフォーカスの局在位置を確認し、そこに細胞内核外輸送タンパク阻害剤を加えることにより、さらなる変化が認められるのか、検討を行っていきたいと考えている。
COVID-19感染拡大により、参加を予定していた国内および国際学会が中止されたため、学会参加の準備費や旅費に当初予定額より減額を生じた。また、海外からの輸入試薬に関してはコロナ禍で納品時期が相当遅れる見込みのものがあり、今年度の発注を見合わせたものがあった。これらの事情により、次年度への繰越金を生じた。
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