研究課題
2011年3月に福島第一原発事故が起こったが、半減期が長い放射性核種においては、その生体への影響を検討することは極めて重要である。本研究は生物試料からイメージングプレートへの放射線の露光程度を示すQL値について、核種ごとの貢献を明らかにする方法を開発することを目的としている。イメージングプレートは放射線に反応するという特性から、放射線を発生させた核種については判定できない。しかしながら、福島第一原発事故後の環境で主に問題となる核種はセシウム137とストロンチウム90の二つであるので、これらの核種における崩壊時の最大エネルギーの違いを利用し、適切に遮蔽を行うことでQL値への貢献を明らかにしようとするものである。本年度はセシウム137の発する主なベータ線を遮蔽し、QL値がどのように減少するのかについて検討を行った。セシウム137が発するベータ線のうち94.4%は最大エネルギー0.514MeVで、5.6%は最大エネルギー1.176MeVである。このうち最大エネルギー0.514MeVのベータ線を0.6mm厚のアルミニウム板で遮蔽し、遮蔽がない場合との比較を行った。その結果、補正に用いる塩化カリウムのスタンダードにおいて、遮蔽がないものは20mBq/gから1000mBq/gの範囲でQL値と場くれる濃度には超苦戦関係を認めたが、遮蔽を行ったスタンダードにおいては高いベクレル領域(500mBq/から1000mBq/gの範囲)でのみ直線関係を認めた。減少率はステップの成分である塩化カリウムでは80%程度、生体試料においては90%以上であり、検討した部位で減少率には変動を認めた。また、アルミニウム板に合致した領域でバックグラウンドの上昇を認めた。これらの結果は遮蔽による有用性は認められたが、一方で遮蔽方法については改良する必要性を認め、次年度以降の重要な課題となった。
2: おおむね順調に進展している
放射性セシウムの最大エネルギーを遮蔽してQL値への応答を検討するという初年度の目的は達成したが、このような遮蔽によってQL値の減少が9割以上となりスタンダードにおいても高線量領域のみの検討に限定されることが判明したため、絶対的な遮蔽が今回用いたものより低いものをもちいて目的が達成できるかを検討する必要がある。さらにアルミニウム遮蔽においてはおそらく制動放射線によるQL値の上昇を認めたためこれについても解決法を模索する必要がある。これらの点をクリアしすることが次年度の大きな目標である。
本来の計画では遮蔽に用いるアルミニウム板を変化させ、それによるQL値の変動を検討する予定であったが、今年度の結果から最大エネルギーを遮蔽する必要性と、遮蔽に用いる物質について検討する必要が生じた。そのため、平均エネルギーによる遮蔽(すべてを遮蔽しないで半分を遮蔽したというデータから核種濃度を推測する)に切り替えることや、青銅放射線の発生が少ない遮蔽体を用いることを検討する予定である。
イメージングプレート実験が既存の材料で賄えたこと、サンプル調製が比較的スムーズに行えたことから本年度使用額が少なかったが、次年度以降消耗品については必要量の購入が必要でサンプル調製については予測しにくいが硬組織などの調整で時間がかかると予測している。
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