研究課題/領域番号 |
19K10512
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
甲斐 由紀子 宮崎大学, 医学部, 教授 (70621803)
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研究分担者 |
舩元 太郎 宮崎大学, 医学部, 講師 (20404452)
山本 恵美子 愛知医科大学, 看護学部, 准教授 (50464128)
綾部 貴典 宮崎大学, 医学部, 准教授 (70295202)
竹山 ゆみ子 宮崎大学, 医学部, 講師 (90369075)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒヤリ・ハット体験 / 卒前・卒後のシームレスな医療安全教育 / コンピテンシー / 自記式質問紙調査 / 臨床実習 / 医学生 / 初期研修医 |
研究実績の概要 |
医学生がチームの一員として診療に加わる機会が増えたが、臨床現場で恣意的にヒヤリ・ハットに気づく教育は困難である。研究の最終目的は、医師予備軍である医学生が医療における最優先課題である安全に配慮した診療ができる医師として育つために、医療安全マインド(医療現場の安全を最優先し、安全が護れるよう安全確保しようとする意識)を育む契機となる組織的学習として普及可能な「コンピテンシーを備えた卒前・卒後のシームレスな医療安全教育の開発」である。 方法は、医学生や医師の教育・診療に携わる「看護学科」「医療安全管理部」「医療人育成支援センター」が連携して学習プログラムを開発・試行し、評価する。具体的には、(1)「医師版ヒヤリ・ハットの認識調査」(質問紙)を作成、(2)同一対象者に卒前・卒後調査を実施、(3)(2)の解析後、実事例を用い模擬患者を活用した「シミュレーション教育」を開発、(4)(3)の評価後、コンピテンシーを備えた実践的能力を学ぶ卒前学習プログラムを試行する。(5)卒前学習プログラムを「臨床経験を積みながら学び直す」卒後教育と連動させることで既存の知識と繋がり、「why」(なぜ行うか)が考えられるシームレスな学習モデルに発展させる。 ヒヤリ・ハットとは、「患者に被害は発生しなかったが、学生(研修医)が実習中(研修中)、『ヒヤリ』とした、『ハッ』とした出来事(自分の実体験のみ)」と定義した。2019年度は、過去10年間のインシデント報告書より医師のヒヤリ・ハットを抽出し、「WHO患者安全カリキュラムガイド多職種版2011」「医学生が臨床実習における医行為と水準」等を参考に、医学生版「ヒヤリ・ハット体験」の質問紙を作成し予備調査後に調査した。その結果から、医療安全教育・演習を終えた卒前のM大学医学科6年生のヒヤリ・ハットの実態と認識について集計・解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
M大学医学部附属病院医療安全管理部に報告された2009年4月1日~2019年3月31日(10年間)のインシデントレポートのうち、ヒヤリ・ハット事例を抽出して医師のヒヤリ・ハット(以下、体験)を分析し、独自にスチューデントドクターのヒヤリ・ハット体験の実態調査-臨床実習における体験やその背景-(質問紙、体験23項目、診療行為に近い体験7項目)を新規作成した。 卒前の医学科6年生対象に、10月25日~11月6日に留置法による自記式質問紙調査を実施した。61名回収(回収率56.5%、有効回答率100%)し、体験場面・体験内容・今後の対処等を分析した。その結果、6年生の8割に体験が見られた。体験場面は、「わからないまま診察」「確認ミス」「感染対策不十分」の順に多かった。体験内容は、「知識不足」「感染対策の不徹底」「患者への配慮不足」「実習態度の欠如」の順に多かった。今後の対処として、「事前学習」「確認し指導を受ける」「報告・連絡・相談する」「継続して再発防止策に取り組む」「自己判断しない」と述べていた。 6年生は、質問紙への回答によって実習を振り返り、ヒヤリ・ハットを認識していた。また、何ができて何ができないかを自覚し、患者の命を預かる医師の視点で患者安全を考えていた。医学生は、臨床実習中に危機的状況に遭遇する機会が少なく、現場で恣意的に体験できる教育を実践するのは困難である。したがって、自発的に「気づき」を磨くとともに、自分で「そうしたい」と思わない限り、向上はあり得ない。医学生には、「態度」教育に重点を置くために間違いや失敗が許される安全な環境、トレーニングの場を提供することで、実習・研修の初期段階で患者安全に配慮した医療安全マインドを身につける教育の必要性が示唆された。これらの結果から、2020年度に予定している初期研修医版の質問紙内容を検討し、初期研修医向けの質問紙を作成した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、以下を実施する。 (1)医学部卒業後に医師免許を取得し研修中の1年目初期研修医(約24名)を対象に、2019年に医学科6年生に使用した質問紙(初期研修医版、2019年度末に一部回答部分を追加)を用いて、同様に自記式質問紙調査を実施し、集計・解析する。 (2)卒前(医学科6年生)と卒後(1年目初期研修医)の調査結果を比較し、医学生のヒヤリ・ハット認識、捉え方の傾向や特徴を抽出し、医学生のヒヤリ・ハットに対する認識の実態を解析する。 (3)2019年度および2020年度の解析結果を基に、研究代表者らが医学生を対象にリスク感性を育てる目的で開発した「教育用電子カルテを利用した医療安全教育」に準じ、個人情報のみ加工した実事例を土台に、新しく模擬患者を活用したリアリティーのある「シミュレーション教育」を教材化する。さらに、医学生が卒前から的確な状況認識と医療安全マインドを修得するための知識・洞察力・表現力を育成し、コンピテンシーを備えた実践的学びができるプログラムを開発する。 2021年度は、医学生が早期にヒヤリ・ハットを認識し、実習・研修の初期段階で患者安全に配慮したスキルを身につける目的で、医学科5年生に試行する。そのうえで、 「学習プログラム」の試行を評価し、卒前・卒後のシームレスな組織的学習に展開させる仕組みを構成する。また、今後、医学教育でヒヤリ・ハット認識を向上させるためには、どのように拡大・利用することが有益なのか、普及・定着の方略や教員に対して必要な教育について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度以降に海外で研究成果を発表する予定であり、そのための費用および旅費を捻出するため繰り越した。
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