研究課題
2022年度は、ライフ・イン京都入居者を対象とした事前指示書(AD)の実証的データ解析を行って国際誌に成果発表をした。2009年から2016年までの間、入居者でAD記載を希望するものには「終末期にむけての要望書」が配付され、その記載内容は施設長の確認のもと施設内で保管されて活用された。2016年からは高齢者総合機能評価検診の診察時に、進行した認知症や老衰期などの回復困難な状態となって経口摂取が困難となった場合にどのような人工的水分・栄養方法を希望するか、医師から入居者に対して胃瘻栄養法や末梢点滴などのメリット・デメリットについて直接説明し、施設内の医療・介護チームと価値観を共有するアドバンス・ケア・プランニングを実施した。2009年から2020年末までの11年間にライフ・イン京都に在籍した入居者は529名、ADを提出したものは合計272名であり、提出率は52%であった。272件のADの指示内容は、たとえ経口摂取が困難となった場合でも「経口摂取のみ」とし、可能な範囲で水分や栄養をとる自然なケアを望むものが59.5%と最多であった。次いで末梢点滴が32%、胃瘻栄養などの侵襲的な方法を希望するものは8.5%であった。2016年以降のACP実施期間中に90名がADを再提出したが、83.3%は人工的水分栄養方法に関する希望について変化がなかった。11年間のうちに272名中120名が死亡し、このうち93名が施設内でなくなったが、実際に終末期にADどおり経口摂取のみとなったものは48.9%、点滴実施されたものは51.4%、胃瘻栄養などの侵襲的方法を実施したものは55.6%であった。「経口摂取のみ」を希望したもののうち胃瘻造設されたものは3名にすぎず、 胃瘻など積極的な方法を希望されていたもので「口からだけ」となったものは1名だけでADと正反対の方法をとった方は少数であった。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナ感染症対策のために調査地における対面調査は1例をのぞいて実地できておらず、認知機能に関するデータ収集が不十分である。しかし、11年間にわたる有料老人ホームにおける事前指示書について、アドバンス・ケア・プランニング実施前後の記載内容の相違について検証をおこなって、実際のエンドオブライフ・ケアとの相違を検証し国際誌に発表することができたため、全体としておおむね順調にしているといえる。
認知機能検査などをふくめた対面調査を再開して、アドバンス・ケア・プランニングを推進し、エンドオブライフ・ケアに関する価値観について対話の機会を増やす。とくに土佐町周辺の医療機関との連携をさらに強化し、家族との対話を中心としたアドバンス・ケア・プランニングの結果、事前指示書の記載にいたったものは、協力医療機関への提出を促す。
新型コロナ感染症のために、調査地における対面調査を実施することができなかったため、次年度使用額が生じた。今後は対面調査や学会発表、論文発表のために使用する予定である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Geriatr Gerontol Int
巻: 22(8) ページ: 581-587
10.1111/ggi.14419
老年科
巻: 6(3) ページ: 149-157