研究課題/領域番号 |
19K10648
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
勝又 陽太郎 東京都立大学, 人文科学研究科, 准教授 (30624936)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自殺予防 / 慢性自殺傾向 / 自殺の対人関係理論 / 地域精神保健 / 支援モデル / リスクアセスメント / 自殺ハイリスク者 |
研究実績の概要 |
令和3年度研究では,地域保健の現場で自殺ハイリスク者の個別支援に当たっている行政の保健師に,オンライン会議システムを用いた自殺予防の専門家によるコンサルテーションを自身の担当するケース支援のために利用してもらう中で,オンライン・コンサルテーションのニーズやオンライン・コンサルテーションを提供する際の課題,およびオンライン・コンサルテーションの効果測定に使用することが可能な指標の候補を探索することを目的として,質問紙と参与観察のフィールドノーツを用いてデータ収集を行った。 具体的には,北陸地方にある人口約9万人のA市において,自殺ハイリスク者の地域支援業務に従事している保健師18名の協力を得て,2021年5月と2022年2月の2回にわたって,独自に作成した無記名の自記式質問紙調査(自殺ハイリスク者対応に関する自信を測定する尺度,自殺の危機介入スキル尺度,組織における自殺ハイリスク者支援の活動状況を測定する尺度で構成)に回答してもらった。また,2021年6月~2022年2月までの間に,必要に応じて研究代表者によるオンライン・コンサルテーションを利用してもらい,当該コンサルテーションへのフィードバックを行ってもらうとともに,研究者側のフィールドノーツをデータとして収集した。 研究の結果,約8カ月間の間に延べ7ケースのコンサルテーションが実施され,各コンサルテーションに関しては高い評価が得られた。また,質問紙調査に関して,18名中欠損値がなかった15名のデータを対象に分析を行ったところ,コンサルテーション実施前後で,自殺の危機介入スキル尺度(SIRI短縮版:川島ら, 2010)の「積極的関与」得点に有意な改善が認められたが,それ以外の尺度では有意差が認められず,コンサルテーションを受けたかどうかによる違いも認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
最も大きな遅れの理由は,新型コロナウイルス感染症の拡大の影響である。まず,本研究の研究対象としている地域保健部局の様々なリソースが感染症対策の方に大きく配分されてしまっており,各自治体の自殺ハイリスク者対策の優先順位が相対的に低下し,研究の協力が得られづらくなっている。また,当初予定していた一般地域住民に対する自殺関連の調査に関しても,人々の自殺関連行動やメンタルヘルスの状態が長引くコロナ禍の影響を大きく受けてしまっているため,それによってデータに大きな歪みが生じる恐れがあり,大規模調査を実施できずにいる。
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今後の研究の推進方策 |
自殺生起メカニズムの理論的精緻化に関連した研究部分に関しては,調査データが新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けてしまう可能性が高いため,当初予定していた調査を軌道修正し,自殺の対人関係理論における「所属感」の概念定義に絞って新たな調査を計画している。とりわけ,今回のコロナ禍で自殺が増加した子ども・若者や女性におけるデータを収集し,そのリスクアセスメントへの貢献を目指す。 もう一方の,地域支援モデルの構築に関連した研究に関しては,新型コロナウイルス感染症が終息する見込みが立たない以上,新たな研究協力自治体を探すことが難しいと考えられるため,すでに研究の協力体制が確立されている自治体との間で,令和3年度に行った研究と同様のデータ収集を続けながら,自殺ハイリスク者の地域支援モデルの構築および評価の研究を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大の影響で学会出張の旅費などが使用できなかったことに加え,モニター会社に委託して実施する予定であったWeb調査が実施できなかった。これらの理由により次年度使用額が生じたが,令和4年度研究においては,当初予定していた研究計画を変更し,新たな調査を実施するとともに,学会旅費等で予算を使用する予定である。
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