研究実績の概要 |
本研究は,これまでに実施した調査と比較することもあるため,新型コロナウイルスが落ち着くまで調査の実施を見送っている。 一方で,これまでに実施した調査から,要介護リスクに認知症やうつが及ぼす影響について分析した。先行研究で認知症やうつがあると1-3年後に要介護リスクがあることは明らかにされていたが,本邦において中長期にわたる追跡研究はまだ少ない。そこで,本研究では,10年間の追跡研究を実施した。 2006年に7,413人に調査を実施し5,927人から回答を得た。その後,未介護認定や取消,死亡,転出を除外し,2016年時点で1,616人を分析対象とした。2006年時点における認知症:0点は疑いなし,1点はレベル1,2点はレベル2,3点はレベル3(高レベルほど認知症疑いの該当数が多い)。うつ疑い:0-1点はうつ疑いなし,2点はうつ疑いレベル1,3点はうつ疑いレベル2,4点はうつ疑いレベル3,5点はうつ疑いレベル4(高レベルほどうつ疑いの該当数が多い)。 研究1では,要支援1,2を「要支援」(451人),要介護1,2,3,4を「要介護」(1,165人)とし,属性,既往,生活習慣などを調整して認知症やうつ疑いのレベルの影響をみた。研究2では,要介護1,2を「要介護Ⅰ」(566人),要介護3,4を「要介護Ⅱ」(599人)とし,同様の分析を行った。本研究で中長期的に追跡した結果,認知症の疑いが強くなると要介護リスクは高まるが,うつは高レベルの場合のみ要介護リスクとの関連傾向が認められた。認知症は進行性であるため10年という時間経過の中で重篤になった者が多かった可能性が示唆された。また,うつが高レベルの者はうつ症状が重く慢性的であるが,うつが低レベルの場合は一時的もしくは緩解したため長期的にみると要介護リスクと関連しなかった可能性も示唆された。
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