全日本ナショナルチームに参加している女子スキージャンプ選手および男子コンバインド選手を対象に,風洞実験室において無風及び有風(25 m/s)の気流環境下で模擬踏み切り動作(シミュレーションジャンプ)を行わせ,側面から高速度ビデオカメラによって撮影した。撮影された映像資料の画像解析を行い,身体重心の速度および姿勢変化の基礎資料を得た。風洞内に設置された床反力計上で踏み切り動作を行わせることによって,選手が発揮した床反力も同時に測定し力積を算出した。力積を選手の装備込み質量で除することによって力積による上昇速度を推定した。また得られた高速度ビデオ映像の画像解析によって、踏み切り動作時間と上昇速度のデータを得た。その結果,有風時は無風時に比べて,力積が小さくなっていることが分かった。しかしながら画像解析から得られた上昇速度は有風時の方が無風時よりも大きくなっていた。一般的な跳躍動作(例えば垂直跳び)においては床反力の力積が大きいほど上昇速度も大きくなる。本研究で得られた結果から,有風時において選手が発揮した床反力は揚力によって減少していたものの,揚力によって選手が引き上げられる作用によって結果的に大きな上昇速度を獲得していたことが明らかとなった。このような揚力による上昇速度獲得への貢献度は選手によって異なり11~26%であった。女子選手の方が男子選手よりも大きな貢献度を示す傾向が見られた。さらに床反力の最大値および踏み切り時間を比較したところ,いずれも有風時と無風時との間で大きな差は見られなかった。揚力による上昇速度獲得の割合が高い選手の床反力波形を詳細に分析したところ,有風時は無風時と比して踏み切り動作の前半部分において揚力の影響が顕著に観察されたことから,踏み切り動作初期の姿勢に揚力獲得の要因があることが示唆された。
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