研究課題
本年度は,Kempeら (2002年) が導入した時間ネットワークの概念において,その関連する遷移問題を研究した.この概念は,分散通信などネットワーク上の時間制約を解析するために導入され,時間ラベル付き有向グラフによって表現される.本研究では,時間制約付き有向全域木を対象とした遷移問題を解析した.これまでの研究に依って,時間制約の条件がない場合には,無向グラフであっても有向グラフであっても,任意の2つの全域木は互いに遷移可能であると知られている.すなわち,これら全域木からなる解空間グラフは常に連結である.加えて,無向・有向のいずれのグラフであっても,全域木の最短遷移問題も多項式時間で解けることが知られている.それとは対照的に,本研究では,時間制約を導入した場合には,解空間グラフは非連結となり得ることをまず示した.次に,そのような解空間グラフであっても,与えられた2つの時間制約付き有向全域木が互いに遷移可能であるかどうか(すなわち,到達判定)が,多項式時間で解けることを示した.その一方で,時間制約がある場合には最短遷移問題がNP困難であることを示し,時間制約の有無に依って計算複雑性が変わるという対比を示すことができた.本年度は他にも,グラフ上のラベル付きトークン遷移問題に関する研究も行った.この問題では多項式長の遷移系列の存在が示せるため,最短遷移問題が研究対象となる.この問題は,量子プログラムのコンパイラ設計に現れる量子ビットルーティング問題として,これまでも研究されてきた.既存研究では実践的なアプローチが主であったが,本研究では計算複雑性の理論的な解析に取り組み,NP困難性や特殊ケースにおける多項式時間アルゴリズム等を開発した.
2: おおむね順調に進展している
グラフに関する最短遷移問題において,これまでに本研究で開発してきたアルゴリズム手法や計算困難性の解析手法を活用して,時間制約付き有向全域木やラベル付きトークン遷移等の最短遷移問題の解析を進めることができた.また,研究成果の取りまとめも進められており,学術雑誌への論文掲載等へと繋がっている.
コロナ禍に依る行動制限もなくなったため,海外現地での研究成果の発表を行い,参加者らからのコメントやディスカッション等を得て,本研究の成果をまとめていく予定である.その過程では,本年度のように,新たな(最短)遷移問題への開発手法の活用も試みることで,本研究に依って得られた知見や解析手法を整理していきたい.
本研究課題は2019年度に採択されたため,その計画期間の大部分がコロナ禍の影響を受けていた.そのため,現在は行動制限がなくなったものの,本研究課題の最終的な取りまとめには,もう少し時間が必要である.次年度使用額は,研究成果の現地発表や最終的な研究成果の取りまとめを推進するために,旅費や物品購入に活用していく予定である.
すべて 2023 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 2件、 査読あり 13件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 7件)
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