研究実績の概要 |
ランダム化臨床試験の主目的は治療の因果効果の推定である。それに加えて、ある特定のバイオマーカーが予後因子であるのか予測因子であるのかを探索的に検討したい場合がある。ここで、予後因子とは陽性か陰性かによって結果が異なる因子のことであり、予測因子とは陽性か陰性かによって治療効果が異なる因子のことである。予後・予測因子を探索するための標準的な方法は、治療(新治療 or 標準治療)、バイオマーカー(陽性 or 陰性)、これらの交互作用項を説明変数とする回帰分析である。これに対して、最近、Chiba(Clinical Trials, 2019; 16: 237-245)は、因果推論で用いられるresponse typeの概念に基づいて、予後・予測因子を探索する新しい方法を提案した。ただし、この方法の適用は、結果変数が2値変数の場合に限定される。 2年目となる今年度は、Chiba (2019) を、結果変数が生存時間の場合に拡張することを検討した。元々response typeは結果変数が2値変数のときに定義されているものであるため、結果変数が連続的な変数である生存時間に拡張するのは困難である。この困難を克服するために、生存時間変数を、ある時点までにイベントを起こしているか否かの2値変数し、その時点を予め定めた期間上で積分することによって平均化するアプローチで検討を進めた。検討の結果、このアプローチが平均生存期間(restricted mean survival time; RMST)に基づく予後・予測因子の探索法になることがわかった。この研究の結果は、Mathematics誌の特集号(Applied Medical Statistics: Theory, Computation, Applicability)に採択された。
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