人間とのコミュニケーションを目的としたロボットが,我々の日常生活空間に急速に普及しつつある.これらのロボットはあたかも家族の一員のような立場で稼働することが想定されているが,果たして実際のユーザはそのロボットを「何者」と認識しているのであろうか.本研究課題ではこの問いに対して,まず,非日常的な状況にてロボットに対する人間の認識を把握できる「モラルジレンマ課題」を基にして,ロボットが日常生活空間に普及することで起こりえる状況を想定した「日常的モラルジレンマ課題」を提案する.そして,ユーザがこれらのロボットをどのように認識しているのかを日常的モラルジレンマ課題を用いたアンケート調査によって多角的に分析し,ユーザのロボットに対する「本音」を炙り出し,人間はロボットを「何者」と認識しているのかの把握を目指す.
2022年度では,2021年度に引き続いて医療分野においてロボットが陥るであろうジレンマ状況のうち,「余命わずかな患者に対して本当の余命を告知するのか,もしくはそれを隠し通す嘘をつくのかといった状況」を設定し,その際のロボットの行動について評価する実験を実施した.その結果,人間であってもロボットであっても,真実を隠し通すような「優しい」嘘はつくべきではないとの結果を得ることができた.ただしこの状況は,人の命に纏わるある意味非常に過酷なジレンマ状況であったと考えられるため,医療分野においてもより日常的かつ命に直接的な関わりのない課題を精査する必要があることも明らかとなった.
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