研究課題/領域番号 |
19K12477
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堀井 伸浩 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (10450503)
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研究分担者 |
森 晶寿 京都大学, 地球環境学堂, 准教授 (30293814)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 環境規制 / 中国 / エネルギー価格 / 市場経済化 / 経済的手段 |
研究実績の概要 |
堀井は、2017年以降に加速した石炭からガスおよび再生可能エネルギーへの転換の実態についての情報収集を進め、市場化の現状と価格形成機能の変化について分析を進めた。得られた知見は以下の通りである。 ガス転換については2017年冬に「煤改気」政策の強い影響を受けて急激に進んだが、その後減速している。その要因の一つが2018年に行われたガス価格の改定(引き上げ)である。ガス輸入が増え続けている中国は石炭からガスへの転換を進めるために国内価格を安価に抑え続けているが、国際価格との逆ザヤが生じ、その差額は補助金で埋め合わせている。再生可能エネルギーについても同様で、2018年5月に風力と太陽光の買取価格を今後引き下げる方針が表明され、固定価格買取制度(FIT)を見直した。当然再生可能エネルギーの普及に強烈な逆風となるため、省別の再生可能エネルギー利用割合基準(RPS)を導入し、引き続き再生可能エネルギーの導入支援を新たな枠組みで継続している。このように中国がエネルギーの経済性を反映する市場化と環境政策のトレードオフに直面しながら制度の調整を行っている状況を明らかにした。 森の担当する排出枠取引の分析に関しては、詳細な制度設計は公表されなかったことから、電力制度改革が電力部門のエネルギー構造に及ぼす影響に関する先行研究のサーベイ、及び第12次5か年計画期間中に排出枠取引パイロットプログラムを導入した地域の二酸化炭素排出量変化とエネルギー構造の転換に関する定量分析を進めた。この結果、石炭取引の市場化は石炭火力発電の競争力を弱め座礁資産化を促しうること、排出枠取引パイロットプログラム導入地域での排出量の削減は、エネルギー供給インフラへの投資内容の変更を通じて排出枠取引対象企業がエネルギー消費構造を転換することを容易にしていたことが大きな要因であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究プロジェクト全体としては,7月に研究協力者のJane Nakano氏(米国CSIS研究員)の来日機会を捉えて福岡にて研究集会を開催し、米国の対中エネルギー・環境外交についてのNakano氏からの報告と、堀井と森の報告に対してNakano氏に米国の視点からコメントしてもらった。また全体及び個別の研究内容・方法・アウトプット・進捗管理に関して確認するキックオフ会合を行った。 堀井は年度中、中国への現地調査(天津市)を1回実施した。計画ではもう1回、春に実施予定であったが、新型肺炎の蔓延により中止せざるを得なかった。しかし2020年度における中国現地調査の回数を増やすことで対処可能であり、何ら問題ない。また3月には2019年度の研究の進捗を確認する研究集会を京都で開催予定であったが、緊急事態宣言が出されたことで直前に取りやめとし、Skype会議で代替した。 森は上記の研究結果を英文学術論文にまとめて英文学術雑誌に投稿したものの採択されなかった.そこで,分析結果をサポートする事実や分析を加えて論文に厚みを加え,再度英文学術雑誌での公表を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2019年度のキックオフ会合で固めた方向性に従って、個別の研究課題について分析を進める。堀井は石炭、ガス、再生可能エネルギーに関する価格制度改革について更なる情報収集を行いつつ、特定地域をケーススタディにエネルギー消費と環境負荷、社会的コストの変化を分析する。 森は,関連する先行研究のサーベイや中国等でのワークショップでの報告に対するフィードバックを通じて,前年度分析した炭素排出権取引のパフォーマンスとエネルギー価格制度改革及びエネルギー構造転換の進展の関係を裏付けるエビデンスを強化する。 新型肺炎の流行状況に左右されるリスクはあるが、2020年度は2019年度以上に中国における現地調査と資料収集を積極的に行うこととする。国内の研究集会は2回開催予定で、うち1回は外部の研究者を招いてのワークショップ形式とする計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、元々堀井と森は2月に中国における現地調査を計画していたが、中国における新型肺炎の蔓延により1月下旬以降、中国への渡航は不可能となり、現地調査実施を断念せざるを得なかったためである。このため、旅費に加え、資料・統計の収集も出来なくなった。また3月には京都において研究集会を開催する予定であったが、これも政府の緊急事態宣言により不可能となった。 幸いにして本研究事業は初年度を終えたばかりであり、計画していた中国における現地調査は2020年度に重点的に実施する。年度内の出張の頻度は増すことになるが、これもまた幸いにして堀井は所属機関より2020年度にサバティカルを取得することが認められており、本研究事業に投じる時間を増やすことが可能である。森も協力を確約している。但し、新型肺炎の流行状況とそれに対応する日本政府および中国政府の規制などが現段階で読み切れないリスクとして残るが、これは我々にはいかんともしがたい不確実性である。
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