研究課題/領域番号 |
19K12564
|
研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 輝 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 教授 (30386924)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | グリーン・ツーリズム / 農村観光 / 地域活性化 / 地方創生 / アグリツーリズモ / 農家民宿 / 品質認証 / プロモーション |
研究実績の概要 |
農村ツーリズムは、農家にとっては観光収入増によって農村環境を保全しながら生業を営むモチベーション向上につながり、後継者不足の対策としても寄与する。イタリアでは「アグリツーリズモ」(以下、AT と略す)と規定される。本研究では同国立統計研究所から入手したデータに基づき、独自の指標である AT農家密度(単位人口あたりの AT農家軒数)を県ごとに分析し、人口増減率との関係性も解明した。また、行政や農業団体も一体となった多角的な AT産業の推進・支援体制を明らかにした(雑誌論文を1件発表)。特に2000年以降のインターネットを用いた重層的なプロモーションが特筆に値し、この予稿原稿を学会HPで1件公表した。 一方、農家民宿への重要な支援策として「外部団体等による AT農家の品質認証(格付け)制度の具体的なしくみ」を本年度にはさまざまな資料・文献に基づいて調査した。あわせて、周辺の先行諸国(ドイツ、フランス、イギリス)との特徴の差異を比較・確認した点では学術上、進展があったものと考える。なお、計画していた現地に渡航してのインタビュー調査は、新型コロナウイルスのイタリアでの長期的な感染拡大のために実行できなかった。コロナ収束後には、当初の目的どおり、主要な団体を訪問して、より詳細な全容の把握を試みたい。 もう一方の目下の課題である「農業団体による地産地消のサプライチェーン支援の効果的な手法」については文献調査の限界を感じており、現地でのインタビュー調査を早急に実現したい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスのイタリアでの蔓延によって航空便の長期欠航や同国内での人々の移動制限が継続されており、現地を訪問してのインタビュー調査と資料収集ができなかったためである。すなわち、もともと予定していた2020年9月の北部の諸州への訪問(ボルツァーノ自治県の諸団体、およびAT協会テッラノストラのヴェネト州支部と直売所)が実施できなかった。この判断材料として、在イタリア日本国大使館等の公表する感染状況・規制の推移、および各地の通訳者からのメールでの情報を参考にした。 ただし、イタリアの AT農家の品質認証制度を代表する二つの事例を特定し、ウェブサイト上からイタリア語の多数の資料を入手して読解・分析を進めた。一つ目は、ボルツァーノ自治県の AT中間支援組織ガッロ・ロッソと県庁農村土木事務所の連携する先駆的な制度、もう一つは同国の全20州のうち14州で採用され始めたイタリア農林食料政策省(以下、MIPAAF と略す)の主導する後発の制度である。 また、日本では初めての試みとして、イタリアよりも先行するドイツ農業協会、フランス・ジット連盟、イギリス観光協会による同様の制度とも比べた。この結果、イタリアの両制度では、設備面、サービス面の審査要件がバランスよく配置され、農村的要素の中でもとりわけ「食」分野の特長が重視されていることが確認できた。
|
今後の研究の推進方策 |
調査3年目には、2年目に実現できなかったボルツァーノ自治県とヴェネト州の上記の訪問先と合わせて、もともと計画していた南部のラツィオ州とバジリカータ州、そして新たに島嶼部であるサルデーニャ州を対象地として加え、2021年9月に訪問する予定(案)を模索している。この可否については、事前の準備を考慮すると、5月頃には最終的に判断する必要があるだろう。もし、新型コロナ感染の影響によって、渡伊の見通しがまだ立てられない場合には、本研究課題を1年間延長して、2022年9月へと現地調査を延期することも視野に入れている。 当初の申請内容に沿って、AT振興の遅れをとった南部および島嶼部を選んだ学術的な焦点については、以下の3点のとおり本年度の研究を通じて、より明確に設定することができた。すなわち、 1)ラツィオ州では同国内初の AT協会であるアグリツーリストの現在の業務内容を確認する。また上述の MIPAAF品質認証制度を初採用した州として ARSIAL(同州の農業の開発と革新のための地域機関)を訪問して制度施行による長短を聴取する。 2)バジリカータ州は本研究で明らかになったとおり AT農家密度が全州の中で最も低く、しかも AT農家軒数が減少している唯一の州であるため、これらの理由と打開策を探求する。 3)サルデーニャ州については著名な観光資源が少なく、人口減少圧の高い地域にもかかわらず、AT農家密度が比較的高いため、日本の地方創生にとっても特に参考となる事例として現状と振興策を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスのイタリア全土での蔓延によって、同国への入国の際に14日間の自己隔離が課され、感染予防措置としての移動・外出制限によって州内・州間の移動がきわめて困難であるため、現地調査を見合わさざるを得なかった。つまり、本研究課題の予算は、ほとんどが旅費と謝金(イタリア語の通訳料)であるため執行できなかった。 したがって、次年度使用額と2021年度の直接経費の合計70万円を効率的に使用して、1回(約2週間)の渡伊によってボルツァーノ自治県、ヴェネト州、ラツィオ州、バジリカータ州、サルデーニャ州を最短の移動経路で回りながら合計11ヶ所へのインタビュー調査を行う計画を立てている。今後、感染予防措置が緩和される時期を見極め、早ければ2021年9月、遅ければ1年間の研究期間延長を経た2022年9月の渡航を検討する。 前半の北部2地域については各通訳者とすでに連絡済みである。後半の3州では最適な各通訳者を選定したため、渡航時期に応じて半構造化インタビュー内容の通訳依頼と訪問日程の調整を開始するつもりだ。
|