研究課題
水をはじめとする分子性液体やイオン液体に数%のナノ粒子を分散させたものはナノ流体と呼ばれ、新しい熱伝導媒体として期待されている。本研究では、ナノ流体の熱伝導性や粘性などのマクロな物性をナノ流体を構成する液体の運動から説明することを目的としている。本年度は酸化ジルコニウム-水ナノ流体の中性子準弾性散乱を測定し、ナノ流体中の水の回転運動について調べた。その結果、水の回転運動はナノ粒子の添加の影響でやや遅くなっていることが示された。前年に行われた高エネルギー分解能の中性子準弾性散乱測定では、水分子の並進運動が観測されたが、ナノ流体中の水分子の並進運動が遅くなる程度は回転運動よりも顕著であった。つまり、水分子とナノ粒子表面との相互作用により、ナノ粒子の存在は水分子の並進運動を抑制するが、水分子の回転運動にはあまり影響を与えないことが明らかになった。これは前年に測定したNMRの結果と一致している。また、ナノ粒子近傍の液体の構造を明らかにするために、ナノ流体の分子動力学計算についても検討した。しかし、金属酸化物ナノ粒子のポテンシャルの作製において解決困難な問題点が見つかり、分子動力学計算を実行するまでには至らなかった。研究期間全体を通じて、ナノ流体中の液体の運動について、中性子・X線散乱実験、NMRを用いて、液体分子の並進運動や回転運動を明らかにした。ナノ粒子表面と液体分子との引力的相互作用により、ナノ粒子は並進運動や回転運動の両方に影響を与えていることが明らかになった。ナノ流体の熱伝導性や粘性の増加は、ナノ粒子自身の存在によるものだけでなく、ナノ粒子表面に存在する液体の物性の変化も影響していると結論した。
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