研究成果の概要 |
初期仏典における涅槃の語彙を網羅的に分析し, かつ学際的アプローチの導入により, インド初期仏教における涅槃の概念に関する新たな知見を提供することを目的とした. その成果として, 註釈文献では, 生前・命終で区別する二種涅槃界の教義が確立しており前提とされるが, 初期経典においては, 生前の涅槃に主眼がおかれつつも, 涅槃の時点は曖昧に語られる場合が多いことを初めて指摘した. しかしながら, 当初より, 人々の関心は命終後の境涯であり, 涅槃や修行の完成は命終時であると考えられていたことが文献中に確認でき, この考えが, 信仰や祈りの場である仏教美術に反映されたと推測した.
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研究成果の学術的意義や社会的意義 |
初期経典で描かれる涅槃の諸相(生前, 時点が曖昧, 命終, 二種涅槃[1経のみ])と, 註釈で説かれる生前・命終で区別する確立された二種涅槃[界]の教義とは, その涅槃観が異なる場合も多いことが, これまでにない知見として明らかになった. その中で, ゴータマ・ブッダの真意が生前の涅槃であっても, 当初から人々の解釈が涅槃や修行の完成を命終と結びつける傾向が見受けられ, 信仰・祈りの場である遺跡の現場でも涅槃=命終が求められたと推測できる. 涅槃は, 画一的に理解され得る概念ではないことを明示した本研究は, 従って, 学術的並びに社会的に, 意義が認められる.
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