最終年度においてはまず、これまでに収集した資料をもとに、空間主義の宣言文をより高い精度で翻訳するための検討を実施した。近年のフォンターナ研究を牽引するバルベロによって編纂された関連文献を新たに入手したことから、昨年進めた翻訳の再検討の必要があったためである。 また、イタリアにおける実地調査が実現したことで、現地での最新の研究動向に触れることができた。フィレンツェにおいて開催された展覧会を実見したこと、年内に組織構成が変わったフォンターナ財団を訪れ、財団に残された資料の調査をおこなったことも含め、イタリア国内のみで可能な資料調査・収集を進めることができた。この内容を形にすべく現在作業中である。 また、22年度末に遠山記念館の「館蔵品紹介」に代えて執筆した論文内で、日本国内においてフォンターナの作品が受容されてゆく道筋を改めて確認しており、これは本年度内に追記・訂正を実施したことで完成した。これらの内容は、同じく22年度末に発表した本邦初のモノグラフィ制作過程の調査と、その執筆者である瀧口による宣言文の翻訳過程を確認する作業に繋がり、この作業を踏まえて最終年度内に執筆した、フォンターナと瀧口の交流を軸に置いて日伊の芸術交流に言及する論文が書籍に掲載されたが、これは結果的に本研究の終了以降の刊行(24年度初頭)となった。 研究の全期間を通してはまず、これまで日本のモノグラフィでほぼ扱われることのなかったネオン作品に主眼を置き、その成立背景として1930年代と50年代の社会状況の変化に注目し、芸術家のアイデンティティの問題が制作に影響を与えた可能性を指摘した。また、空間主義の複数の宣言文と未来派の宣言文との比較を実施して邦語訳の作業につなげたこと、瀧口による最初のモノグラフィ成立の過程と内容を検討し、その仕事を評価するとともに欠けた部分を確認したことは、本研究の完成に向けて意義があった。
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