申請時点では本研究課題は米国の資料館での調査を行うことを前提として計画していた。しかし、2020年初頭より世界的に流行したコロナウィルス感染症の状況が常に流動的であり、その都度研究計画の見直しを行ってきた。最終的に米国への渡航は叶わず、申請段階から研究計画は大きく変更することになった。 渡米できずに日本から米国の資料館のデジタル資料を集中的に調査したことで、結果的に日系米国人の歴史に関してどういった資料館がどういった資料を所蔵しており、それらがどの程度オンラインで公開されているのかの全体像を把握することができた。米国では現在でも日系米人に対しての聞き取りや彼らが保有している文化的遺物や書類・写真などを積極的に収集していることがわかり、これらの資料を利用して6月にアメリカ学会において本研究についての研究発表をおこなった。また、米国では日系人の歴史の教育のためのコンテンツづくりにも力を入れていることがわかった。この点について、Mission USという団体が日系人の強制収容を題材にした学校での教材としての利用を想定したシリアスゲームを開発しており、これらの紹介をアウトリーチ活動の一環としておこなった。 方向性自体は変更が大きかったが、結果的には当初の計画と比して十分な実績が出たといえる。2021年5月に「風景から光景へ――『君の名は。』における仮想のレンズと半透明性」という論文が採択率30%程度のトップジャーナルに掲載された。これは日系米人が収容所生活の中で周囲の風景をどのように見ていたのかを検討するために、収容所内で建設された日本庭園や描かれた風景画を分析するための枠組みを理論的に検討していた成果を、風景描写に定評がある新海誠監督の映画作品の分析に流用したものである。この論文が本研究の副産物的ではあるがもっとも大きな研究実績であり、他にも同様の論文が現在執筆・査読中である。
|