研究課題/領域番号 |
19K13045
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
稲葉 肇 明治大学, 政治経済学部, 専任講師 (00793093)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アインシュタイン / 原子論 / プランク / 状態和 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,「研究と教育」の相互作用という観点から量子統計力学の形成過程を明らかにすることを目指している.2019年度においては,この課題に関連して,1本の公刊物と1本の国際学会発表という成果を挙げた.「いかにしてアインシュタインは原子論に到ったか」『現代思想』第47巻(2019年8月,157-169頁)では,アインシュタインが統計力学の基礎にある原子論をどのように受け容れるに到ったのかを,彼が少年期から青年期に読んでいたさまざまな啓蒙書や教科書をもとにして検討した.ビューヒナー『力と質料』や,ベルンシュタイン『自然科学読本』といった通俗科学書は,アインシュタインにとって広い意味での教育的環境を与えたと解される.また,1st Conference of the International Academy of the History of Science(アテネ,2019年9月13日)では "The Tool of Sum-over-states: Research and Pedagogy in Quantum Statistical Mechanics, 1902-1944" と題した発表を行い,量子統計力学に状態和(分配関数)が導入された経緯と,それによってどのようにプランクの教科書『熱輻射論講義』が改訂されたかを検討した.なお,この発表をもとにした英語論文を投稿中である.さらに,ベルリン大学での講義実態を把握すべく,ドイツ物理学会文書室でプランクの1912年の講義録を,ベルリン州立図書館で,1911年夏学期から1941年夏学期のベルリン大学における物理学関連の開講科目を調査した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定にあった,1910年代におけるデバイの状態和の導入過程の検討や,1921年のプランクの『熱輻射論講義』第4版の分析はすでに終えている.また本来は2020年度に行う予定であったが,これらに,1920年代前半におけるシュレーディンガーの統計力学研究の分析を加え,Studies in History and Philosophy of Modern Physics 誌に論文を投稿中である.当初予定していたダーウィンとファウラーによる分配関数の導入過程の検討も,1920年代に公刊された論文や教科書『統計力学』(1929)についてはすでに終えている.しかし,Archive for the History of Quantum Physicsに収録されているファウラーの講義ノートについては作業が遅れている.未公刊史料について作業が遅れているものの,公刊史料については先取りして作業を進めているため,全体としてはおおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
当初予定のプランとしては,遅れているファウラーの講義ノートの分析を進めることが第一である.また,トルマン『統計力学の諸原理』(1938),ランダウ=リフシッツ『統計物理学』(1938),スレーター『化学物理学入門』(1939)などの教科書の内容を検討し,書評を調査することで,量子統計力学における状態和(分配関数)の方法が普及した様子を明らかにする.ただし,カリフォルニア工科大学所蔵のトルマンの講義ノートや,ブールハーヴェ王立博物館所蔵のエーレンフェスト宛書簡については,新型コロナウイルス感染症の終息を待たなければならないため,2020年度の実施は不可能となるおそれがある.その場合,当初の計画にはなかったが,1920年代から30年代におけるフォン・ノイマンの研究を参照することで,計算テクニックとしての量子統計力学が洗練されていく過程を確認しておきたい.これにより,研究の側面における量子統計力学の発展を押さえる.
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